問題社員対応について~能力不足の社員に対する解雇~

問題社員の典型例として能力不足の社員が挙げられます。

当事務所のご相談の中で「社員のパフォーマンスが低くて困るので解雇したい」とお聞きすることも少なくありません。

今回は能力不足の社員についてどのような法的対応が可能か(解雇ができるかどうか)についてお話していきます。

 

まず能力不足とは何か、これを確定する必要があります。

訴訟になった場合、能力不足について主張立証責任を負うのは企業の側になりますが、この立証は大変ハードルが高いといえます。

 

このため、企業としては具体的・一義的な能力を要求するため、人事考課制度等による能力評価を行っている必要があります。

 

そして、労働者側の債務不履行があったといえるためには能力が債務の内容になっている必要があるため、当初の労働契約の内容がどのように特定されていたかが重要です。

 

新卒一括採用の場合には、採用時点で採用後の業務等が決まっていないことが多いため、具体的に労働契約の内容として求められる能力が特定されていません。この場合には能力不足を理由とする普通解雇は難しいといえます。

 

一方で、採用時点で人事部長や営業部長のように地位を特定して採用される社員もいます。

この場合には、新卒と異なり、その職務を遂行する具体的能力を備えていることが労働契約の内容になっているといえます。

この場合の留意点としては、労働契約書を作成した上で労働契約を締結すること、労働契約書に地位や職位を明確に記載すること、職種変更や配置転換等の予定がないこと、具体的な成果や目標等を明確にしておくことです。後日、労働契約の内容として特定されていたと判断されるポイントになります。

そして、このように契約上も能力を特定されていた場合で、当該能力を備えていない場合には債務不履行といえ、普通解雇事由に該当します。

その上で解雇が法的に有効とされるためには、社会的相当性も備える必要があります。

社会的相当性が認められるかどうかは、会社として、

☑能力を発揮できるだけの機会を与えたかどうか、

☑会社が助言支援したかどうか、

☑市場の状況からやむを得ない状況ではないか、

☑賃金処遇が責任に見合ったものかどうか、

等を考慮した上で判断されます。

 

NECソリューションイノベータ事件(東京地判平成29年2月22日)では、

  • 勤務成績が長年にわたり著しく不良かつ深刻であったこと、
  • 勤務成績が向上せず改善向上の見込みがないこと、
  • 勤務態度が不良であったことに加えて
  • 会社が当該従業員に注意喚起を続けたこと、
  • 会社が解雇を回避すべく対応していたこと

などが総合的に考慮され解雇が有効と判断されました。

 

傍論において

「(大企業であるが故に対応できたという面もあろうが)むしろY社はXが対応できそうな業務をあてがい、可能な限りの改善、教育を行い、その向上を期してきたにもかかわらずXはその能力不足、勤務態度の不良さ故に向上できなかったものであり、Y社が在籍出向等可能な限りの解雇回避措置を尽くしたにもかかわらず、その甲斐なく解雇に至ったというのが本件の実情であると認められる」

という言及がされています。

 

実際、中小企業がこの判例で認定されたような措置(人事考課、賞与考課のフィードバック等を通じた注意喚起、在籍出向等)までできるかは難しいと言えると思います。

したがって、あくまでも企業規模に応じ、会社としてできる限りの措置をとったかどうかが普通解雇が有効とされるための社会的相当性を判断する重要なポイントになるのではないでしょうか。

 

今回は能力不足の社員に対する対応について述べてきました。

このような能力不足の社員に対する対応について、解雇が相当かどうかは非常に悩ましい問題といえます。会社として解雇の判断をする前にまずは当事務所へご相談ください。

当事務所では継続的な顧問サービスにおいて、問題社員に対する対応について法的助言を行ってきた実績があります。

訴訟等になれば会社側の時間的損失、経済的損失も少なくありません。

具体的トラブルに発展する前に当事務所へご相談ください。

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