それって労働時間にあたるの?-手待ち時間の労働時間該当性 

1 労働基準法上の「労働時間」とは?

労基法上、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について40時間を超えて、労働させてはならない」(32条1項)とし、また時間外労働については割増賃金の定めを設けています(37条)。

これらの「労働時間」に関する労基法の規制の適用があるかどうかはどのように判断されるのでしょうか?

この点、労基法上の「労働時間」は労働契約の定めいかんにかかわらず客観的に定まるものとされています。すなわち、労働契約書上の「所定労働時間」内であっても、遅刻、早退、欠勤、業務免除などによって実際に労務提供を行わなかった時間は「労働時間」とは評価されません。

2 労働時間の定義に関する判例の考え方

「労働時間」の定義に関して、最判平12・3・9民集54巻801号・労判778号11頁(三菱重工業長崎造船所事件)は「労働基準法・・・の労働時間・・・とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」と判示しています。

このように判例は、労働時間について「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と概括的な定義を与えた上、その判断については諸々の事案の中における要素を総合考慮した上で規範的評価を行っているといえ、近時の裁判例もこの判例の規範を踏襲しています。

3 手待ち時間は労働時間に該当する?

住み込みでマンション管理員として勤務していた者の労働時間の考え方が争点となった事件(最判平19・10・19民集61巻7号2555頁労判946号31頁 大林ファシリティーズ事件)では「実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という)が労基上上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである」「そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる」と示しました。

したがって、「労働時間」と評価されるか否かの判断にあっては当該時間において「労働からの解放」が保障されているといえるか否かがポイントとなります。

つまり、たとえ「仮眠時間」や「自宅待機時間」のように現実に作業に従事していない時間であったとしても、労働からの解放が保障されていない場合には手待ち時間とされ、労基法上の労働時間として扱われます。

このように、現実に作業に従事しているわけではない手待ち時間を完全な労働時間として同等に扱うことの実質的妥当性については議論があり得るところですが、現行労基法上は「労働時間」と「休憩時間」の間のグレーゾーンは認められていないため、労働からの解放がない場合には一律「労働時間」として扱われることとなりますので注意が必要です。

以上、手待ち時間の労働時間の該当性について述べてきましたが、実際に労働時間に該当するかどうかについては、多くの裁判例があり事案によっては否定されていることもあります。

このため、安易に判断せず、専門家である弁護士へご相談ください。

弊所の顧問サービスでは、企業様の就業規則のチェックから、実際の運用の問題点に至るまでアドバイスが可能です。

 

 

 

 

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