弁護士解説!テレワーク(在宅勤務)導入の手引き

コロナ禍の昨今、テレワーク(在宅勤務)の需要が高まっています。
この在宅勤務を導入するにあたり、問題点もあります。今回はこの問題点につき、いくつかポイントを絞ってお話ししていきます。

 

1 在宅勤務中の従業員の労働時間をどうするか悩んでいます!どのように管理したら良いでしょうか?

在宅勤務であっても、労働者の労働時間は適正に管理される必要があります(安全衛生法66条の8の3)。
在宅勤務における労働時間の把握については、厚生労働省による「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が参考となりますが、同ガイドラインには、
使用者が労働時間を把握する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として、始業及び終業の時刻を確認すること
等が挙げられています。
これからすると在宅勤務者がパソコンを使用して業務に当たる場合、パソコンの使用時間の記録等により労働時間を把握する方法が勘弁といえます。
パソコンの使用時間の記録等で労働時間を適切に管理できない場合には、労働者の自己申告により労働時間を把握する方法が考えられます。
ただし、申告された時間以外の時間にメールが送信されている、申告された始業・終業時刻の外で長時間パソコンが起動していた記録があるなど、申告された労働時間とパソコン上の記録との間に乖離がある場合には、労働時間を補正する必要が出てきます。

 

2 在宅勤務中、業務をサボっている従業員がいるようです・・・PC備え付きのカメラ等で監視することは問題ないでしょうか?

この点、常時カメラを付けたままにすると、生活音や家の中での会話が入ったり、部屋の様子が映し出されることがあります。この度を超えた監視は、プライバシー侵害となる可能性があります。
プライバシー侵害に当たるか否かは、監視をする者の責任や立場、業務上の必要性、監視の目的、監視の方法、監視の根拠、従業員の被る不利益等を総合考慮して判断されますが、法的な問題だけでなく、常時カメラに監視されている状態では生産性が低下するという問題も出てきます。
したがって、始業時間に業務を割り振り、一日の終わりに進捗を報告させるなど、監視を目的とするのではなく、あくまでも業務の生産性や結果を重視した運用とすべきでしょう。

 

3 緊急事態宣言中はテレワークを実施していましたが、宣言解除後は全員出社としています。ある社員から解除後もテレワークを継続したいと言われましたが、出社を命じることはできますか?

前提として使用者は労働契約法上、労働者に対して業務命令権を持っています。
このため、業務命令の内容が業務の遂行に必要かつ相当な範囲であれば、労働者は業務命令に従う義務があるといえます。
すなわち、職務内容(在宅勤務に向かない職種、接触機会が多いか等)や勤務する地域の感染状況、職場で実施している感染防止策等の事情を考慮した具体的な感染リスク、従業員の健康状態(リスクグループに該当するか等)等を考慮し、必要性・相当性が認められれば、業務命令として出社を命じ得るといえるでしょう。
また、従業員の職務が在宅勤務ではできない場合であって、職場における感染リスクが低く、従業員の健康状態にも問題ない場合には、業務命令によって出社を命じ得るといえます。
これらの予防法務の観点から、在宅勤務の終了時期につき具体的にできるようであれば、あらかじめ労使双方で認識をすり合わせ、合意書を交わしておくというのも一案でしょう。

 

4 在宅勤務を導入するにあたり、正社員のみ在宅勤務を認め、派遣社員に在宅勤務を認めないことは問題となるのでしょうか?

労働者派遣契約には、勤務時間や業務内容、具体的な就業場所等を記載することとされています(労働者派遣法26条1項1号~10号)。
派遣社員が在宅勤務を実施する際には、派遣先企業と派遣元企業とで締結されている派遣契約書において、就業場所に自宅を追加する必要があります。
もっとも、職場でクラスターが発生した場合など、緊急の必要があるには、事前に契約書の変更までは必要まではありません。ただし、派遣先と派遣元とで合意しておくことが必要になります。
なお、派遣労働者であることのみを理由として、派遣社員だけ出社させることは、均衡待遇確保義務(労働者派遣法40条4項)等に反し、違法とされる可能性があります。
派遣社員が担当している業務が在宅勤務では対応が難しい等、派遣社員に在宅勤務を認めない合理的な理由が求められますので注意が必要でしょう。

以上、在宅勤務実施にあたっては数々の法的な問題点もありますが、新しい法的問題のために訴訟に発展したといった実績もないのが実情です。このため、労働基準法などの法律の考え方を基本にして、予防法務の観点から専門家から問題がないかどうか、アドバイスを受けていくことが肝要です。
弊所の顧問サービスでは各種法令やガイドラインのリサーチに基づき、この点、綿密なアドバイスが可能です。ぜひご相談ください。