コロナ禍における下請法

公正取引委員会は2021年6月、前年に下請法違反で勧告・指導を行った数が過去最多であったと発表しました。
当時の内訳としては勧告が4件、指導が8107件となっていました。
長引くコロナ禍において、不当な発注取り消しなどの下請法違反行為の報告が寄せられているようです。
今回は、コロナ禍において下請法が問題になるケースについて、お話していきます。

まず、親事業者が発注した製品の返品や取消しといったケースです。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、発注業者として、やむを得ず発注した製品について返品や発注の取消しをすることもあり得ます。

しかしながら、下請事業者に責任がある場合を除き、発注済みの物品等について返品することは下請法第4条第1項第1号及び第4号に違反する可能性があります。

やむを得ず、受領日が到来する前に発注の取消しを行う場合でも、仕掛品など下請事業者に生じた費用を負担しない場合には、下請事業者の利益を不当に害することとなり、不当な給付内容の変更(下請法第4条第2項第4号)として、下請法に抵触する可能性があります。

次に、コロナウイルスに関する製品の安全性確認や不測の事態に備える費用を捻出するためにやむを得ず、親事業者が下請代金の額を減額せざるを得ないというケースです。
これについては安全性の確保を理由としても、親事業者が下請事業者に責任がないのに下請代金の減額を行うことは下請法第4条第1項第3号に違反します。
この場合には、親事業者及び下請事業者で十分に協議を行い、給付の内容、検査規格、検査の実施方法その他必要な事項を決定した上で、改めて下請代金の額を定める必要があります。

そして、親事業者側の受注減により資金繰りが困難になることから下請事業者との取引条件について、現金払を手形払に変えたり手形期間を従前より延ばしたりすること、下請代金の支払を猶予してもらいたいといったケースです。

支払方法の変更や手形期間の変更により生じる下請事業者のコストを負担しないで一方的に下請代金の額を据え置く場合には、買いたたき(下請法第4条第1項第5号)として、下請法上、問題となる可能性があります。

下請代金を手形で支払う場合に、繊維業については90日、その他の業種については120日を超える手形を用いるときは割引困難手形(下請法第4条第2項第2号)に該当する可能性がありますし、下請事業者から製造委託した物品等を受領している又は提供を受けているにもかかわらず、支払期日に下請代金を支払わない場合には(支払を猶予してもらうよう依頼し下請事業者の合意を得た上で支払わない場合も含みます。)下請法第4条第1項第2号の支払遅延に該当し下請法違反となる可能性があります。

支払遅延の場合、下請事業者に対し、下請事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過した日から支払をする日までの期間について、遅延利息(年率14.6%)を支払わなければなりませんので注意が必要です。

※参照法令 下請代金支払遅延等防止法
(親事業者の遵守事項)

第四条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。

一 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。

(略)

三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。

四 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。

五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
 (略)

2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。

(略)

 二 下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。

四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。

 長引くコロナ禍において親事業者側の資金繰りも悪化し、下請事業者との間で法的トラブルに発展することも少なくありません。双方十分納得の上で協議で解決するのが望ましいですが、下請法についての理解がなく一方的に発注の取り消しや支払い猶予等を行ってしまうと気づかないうちに行政指導の対象にもなりかねません。

 また、下請事業者側も法的知識がないばかりに力関係で泣き寝入りを強いられることもあるかもしれません。この場合には公正取引委員会へ是正の申告をすることも1つの手段です。今、事業者の意識の高まりから、上述の通り、公正取引委員会による行政指導等が増えているのも事実です。

親事業者側、下請事業者側にとっても下請法の理解は必須ですので、法律の専門家である弁護士のアドバイスをもらいながら長引くコロナ禍を乗り切ることが肝要です。

弊所では顧問サービスにおいて、この点のアドバイスが可能ですので、お悩みの企業の皆様、ぜひ弊所へご相談下さい。

 

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