その移動時間は時間外労働?-移動時間と労働時間性
1 移動時間が「労働時間」にあたるか?
労基法上の「労働時間」とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します( 「それって労働時間にあたるの?-手待ち時間の労働時間該当性」頁 参照)。
このため、移動時間が労働時間に該当するかは移動時間中の行動が拘束されているか、使用者の支配管理が及んでいるかといった要素から当該移動時間について、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるか否かによって判断されます。
2 移動時間に関する裁判例
移動時間のうち、通勤時間について、労働者が会社の提供するバスに乗って寮と就業場所を往復していた事例(東京地判平10・11・16労判758号63頁 高栄建設事件)では「寮から各工事現場までの往復の時間はいわゆる通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものである以上、これについては原則として賃金を発生させる労働時間にあたらないものというべきである」と判断されました。
また、出張にかかる移動時間の労働時間制性についても「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから、右所要期間は労働時間に参入されない」と判断した裁判例もあります(横浜地決昭49・1・26労民集25巻1・2号12頁)。
しかしながら、裁判例の中には、納品物の運搬それ自体が出張の目的である場合や、ツアー参加者の引率業務のサポートという具体的業務の提供を伴う場合には、移動時間も労働時間に該当すると判断したものもあります(東京地判平24・7・27労判1059号26頁 ロア・アドバタイジング事件等)。
3 行政指針について
上述の裁判例とともに、移動時間の該当性について一つの指針となる通達があります。
この通達は休日労働についての通達ですが、
「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」(昭和23年3月17年基発461号、昭和33年2月13日基発90号)
としています。
この通達によれば、原則として、出張中の移動時間は休日労働にあたらないので労働時間に該当しないということになりますが、物品の監視など別段の指示がある場合には例外的に労働時間に該当することが示されています。
物品の監視以外には移動時間中に打ち合わせをするような指示を受けた場合や、資料を作成するように指示を受けた場合などが考えられます。この指示は黙示の指示も含まれますので、移動時間中しか打ち合わせや資料作成の時間が想定されていない場合等、移動時間中にこれらの業務を行わなければならないような場合には黙示の指示があったと考えられますので注意が必要です。
上述してきたように、移動時間が労働時間に該当するかどうかは事案ごとに当該時間が使用者の指揮命令下に置かれていたかどうかにより判断されます。そして、その判断については裁判例等を参考に専門家の意見を聞くことが重要といえます。
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