労働時間管理のために企業がとるべき措置と知っておきたい注意点を解説

企業には多くの従業員が働いていますが、企業は、その全ての従業員の労働時間を適切に管理する必要があります。労働時間を正確に把握・記録できていなければ、労基法違反になるだけでなく、従業員の不満や健康被害で訴訟トラブルなどにもなりかねません。そこで本記事では、労働時間管理のために企業がとるべき措置や注意点について解説します。

労働時間管理が必要な背景

残業時間の上限の明確化

皆様ご存じの通り、従業員の労働時間管理が必要な理由の一つとして、残業時間の上限が労働基準法で定められていることが挙げられます。労働基準法の規定を遵守するために、企業は適切な労働管理を行う必要があります。労働基準法において、残業時間は月に45時間、年に360時間までと定められています。この上限を超えて働かせることは違法であり、労基法違反が発覚した場合には罰則が課される事態になりかねません。時間外労働の上限超過を避けるために、実態に沿った勤怠管理が企業に求められます。

時間外労働の割増率の引き上げ

2023年4月から、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増率が引き上げられました。従来は、60時間を超えた場合の割増率は基礎賃金×25%でしたが、引き上げ後は基礎賃金×50%の割増率となっています。時間外労働の割増率に沿って正しい賃金を支払うためには、正確な労働の把握が必要です。また、従来通りに時間外労働を行わせていると、人件費の高騰によって経営を圧迫しかねないため、労働時間の適切な管理とともに、残業時間削減の取り組みが企業には求められています。

労働時間管理のために企業が行うべきこと

厚生労働省によるガイドラインへの準拠

労働基準法により、企業側は従業員の労働時間を適切に管理する義務を負っています。そして、労働時間の適切な把握のために企業側が実施すべき措置が具体的に記載されたガイドラインが、厚労省から示されています。労基法に違反すると、罰則が課される可能性があります。企業はこちらのガイドラインに従って、労働時間の調整と記録を行う必要があります。

参考|厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」

労働時間管理を行う項目の確認

労働基準法には、労働時間管理をするために確認すべき項目に関する明確な規定はありません。一方で、ガイドラインに記載されている、「使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること」という文言から、管理すべき項目は以下のような内容といえます。

・始業・終業時刻、労働時間、休憩時間

・時間外労働時間、深夜労働時間、休日労働時間

・出勤日、欠勤日、休日出勤日

・有給取得日数、残日数

始業・終業は1分単位で把握し、時間外労働に対しては確実に割増賃金を支払う必要があります。また、従業員の健康管理や給与計算を確実に行うためには、出勤日や有給取得日数についても必ず把握し、休日が足りていない従業員がいないかどうかをチェックしましょう。

始業・終業時刻の確認・記録

従業員の労働時間を適切に把握するために、企業は始業と終業の時間を確認・記録しなければなりません。単に1日何時間働いたかを把握するだけでは、残業や深夜労働休日出勤を見落とす可能性があるため、労働日ごとに始業・終業時刻を確認・記録し、何時間働いたかを把握する必要があります。勤務時間の確認と記録は、客観性や正確性がある方法で行うことが重要です。近年は、タイムカードやICカードを利用した打刻によって、勤怠管理をする企業が増えています。勤怠管理自体が日々の業務負担を増やす事態にならないように、勤怠管理アプリなどを活用しながら、効率的に従業員一人ひとりの勤務時間を正確に把握することを意識しましょう。

労働時間の記録に関する書類の保存

労働時間の記録に関する書類については、5年間の保存義務があり、労働基準法109条で定められています。労働時間の記録に関する書類とは、タイムカードだけではなく、残業命令書や報告書、残業申請書なども保管しておかなければなりません。そして、5年の保存期間の起算点は書類ごとの最終記載日です。期ごとに破棄するような運用方法では労基法違反となるため、注意しましょう。また、労働基準法108条において、企業には賃金台帳の作成も義務づけられています。賃金台帳の記載事項は以下の通りです。

・労働日数

・労働時間数

・残業時間数

・休日労働時間数

・深夜労働時間数

これらの項目を正確に記載するために、賃金台帳の作成においても労働時間の正確な記録は必要となります。

企業が労働時間管理を行う際の注意点

労働時間の定義を明示すること

労働時間の管理を適切に行うために、まずは企業が法律上の労働時間の定義を把握し、従業員にも周知しましょう。労働時間とは一般的に労働者が雇用主の指示に従って労働に従事する時間全体を指します。その中には労働した時間だけでなく、待機時間なども含まれます。また、職場ごとに、明確な労働時間の定義を決めることを推奨しております。例えば、始業は職場へ入室したタイミング、終業はパソコンの電源をオフにした時、等です。ただし、完全に独自に定めて良いということではなく、「更衣中も労働時間に含まれる」とされた裁判例があるように、法的な判断に従う必要があります。自社の規程に問題がないか不安な場合は、弁護士に相談しましょう。

自己申告制の導入には注意が必要

労働時間の管理は基本的にタイムカード等の客観性・正確性のある方法で行いますが、どうしても自己申告制によって行わざるを得ない場合は注意が必要です。自己申告制を導入する場合は、主に以下の措置を講じなければなりません。

労働時間の正確な記録の必要性に関して、当該労働者に対する十分な説明を行う

自己申告した労働時間と実際の労働時間の合致を確認する実態調査を行う

特に、適正な申告を行なった労働者に不利益な取り扱いが行われないよう、十分注意する必要があります。

労働時間管理を行う対象となる範囲

労働時間を管理する対象範囲は、役員を除く全ての従業員に及びます。もちろん大企業だけでなく、中小企業や個人事業主も一人でも従業員を雇っている場合は、労働時間の把握と適切な勤怠管理が必要です。また、労働時間管理が義務づけられる対象には、正社員も非正規労働者も問いません。取締役・会計参与・監査役の役員を除く、裁量労働制が適用される管理職も管理対象に含まれます。従業員の労働時間管理は、企業の大きな責務であることを把握しておきましょう。

弁護士に労働時間管理を相談するメリット

従業員の労働時間管理を適切に行うためには、自社の制度を弁護士に客観的な視点から見てもらいましょう。労働時間管理について弁護士に相談するメリットは以下のとおりです。

・不正確な残業代の支払いや過重労働によるトラブルを未然に防ぐ

・訴訟の際はスムーズに手続きをサポートが可能

労働時間管理を正確に実施することができていない状態では、突然従業員から労働審判や民事訴訟を起こされる事態になりかねません。そこで、日常的に訴訟の対応を行っている弁護士にご相談していただくことで、訴訟に発展しないような労働時間管理体制を構築することができると考えております。

労働時間の管理に関してお困りの場合は当事務所まで

従業員の労働時間を適切に管理することは、労働基準法に定められた企業の義務です。労働時間を正確に把握できていなければ、労基法違反で罰則となる可能性があるだけでなく、従業員の健康を害する事態になりかねません。大きなトラブルに発展する前に、自社の労働時間管理が適切かどうかの判断は、弁護士に相談することを推奨しております。

宇都宮東法律事務所では、企業労務の実績が豊富な弁護士がご相談を受け付けています。貴社の実務に沿った適切なアドバイスを行いますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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