解雇無効のリスクについて
企業の皆様の中には問題社員への対応で日々頭を悩ませている方も少なくありません。
弊所へのご相談の中でも「どうしてもすぐに退職させたい。そうでないと周囲がとても迷惑している。お金を払ったらすぐに辞めさせられると聞きましたが」といった相談も少なくありません。
もし仮に耐えられず解雇を行ってしまった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか?
今回は解雇無効のリスクについてお話していきます。
1 問題社員は自主退職を簡単に受け入れることはまずありません!
まず法律ではどのような仕組みとなっているのか、これを理解しておきましょう。
- 合意解約(合意退職)…「依願退職」がこれにあたる
- 辞職(民法627条1項)…解約申込後2週間で終了。
最近流行りの「退職代行」問題もあるが退職の自由がある。
ただし、2週間は労働義務がある。
退職勧奨自体は違法ではないが、「社会通念上相当と認められる程度を超えると違法。
- 解雇… 会社が一方的に退職させること
労基法上、解雇予告の制限規定あり(労基法20条)
使用者は労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。
この予告日数は平均賃金1日分を支払った日数だけ短縮できる
予告義務違反の解雇も直ちに解雇無効とはならない
予告義務は試用期間中の者(ただし、14日を超えた場合は別)には適用なし
2 問題社員なら簡単に解雇できる?
解雇の種類としては、以下の3つがあります。
(1)普通解雇=民法の債務不履行(労働義務の不履行)を理由にした解雇
⇒病気、適格性不足、勤務成績の著しい不良等、協調性不足、信頼関係
(2)整理解雇=普通解雇の一種。使用者側の業績不振
(3)懲戒解雇=企業秩序違反に対する罰則(ルール違反のレッドカード)
⇒経歴詐称、重大な職務懈怠、業務命令違反、規律違反等
問題社員の場合、簡単に上記の解雇ができるのでしょうか?
結論としては、「できない」ということになります。
その理由としては「解雇権濫用法理」が存在するからです。
これは裁判所で確立された解雇のハードルで、何等かの理由があったとしても簡単には解雇できず、解雇するためには相当の理由が必要というものです。
労働契約法16条がこの「解雇権濫用法理」を定めています。
3 耐えきれず社員を解雇した!会社としてどんなリスクがありますか?
それでは耐え切れずに従業員を解雇し、そこから働いていない場合、もしこの解雇が無効になった場合はノーワーク・ノーペイになるのでしょうか?
この点については、基本的に解雇してから復帰まで賃金100%支払わなければならないとされます。
労働者が働く意思を示して解雇を争っているのであれば、使用者の故意・過失で働くことを拒否している場合に該当し、民法536条2項によって賃金支払請求権は発生すると考えられています。
そもそも、解雇権濫用法理とは、日本の旧来の終身雇用制度を支える仕組みで日本の解雇のハードルの高さは異常とも考えられています。
このため、不当解雇の場合には解雇が無効となり、問題社員を復帰させるのが原則となってしまうのです。
さらに、上述の通り、復帰させるまでの賃金を全部払う必要があるので(バックペイ)、さらに解雇を行うリスクは高いといえます。
以上を踏まえると解雇には以下のリスクがあるといえます。
- 経済的コスト
解雇してから復帰させるまでの賃金を全部払う必要がある(バックペイ)。
退職前提で和解できることもあるが、その際の解決金は最低給与6か月~青天井(どうしても辞めさせたいということで数年分給与を払うケースもある)。
さらに訴訟になれば、バックペイとともに付加金の支払いを命じられることもあり、経済的損失はより多額になることがある。
- 人的対応コスト
労使紛争になる可能性が極めて高い。
人事部や幹部レベルが対応。団体交渉・労働審判等に割く時間
- レピュテーションリスク
企業の信用・ブランド価値の低下
公開の訴訟、特にユニオンや組合が関与する事件では大きい。
そうでなくとも、SNSなどで拡散される時代
以上、解雇無効のリスクについて述べてきました。
現在、弊所では問題社員対応をはじめとした各種セミナーを実施し、企業の皆様に情報を発信しております。ご興味のある方はぜひお問い合わせください。
また実際に解雇をするかどうかで悩んでいる企業の皆様、弊所の顧問サービスでは後日トラブルにならないよう予防法務の観点からアドバイスが可能です。