施工不良のクレームで工事代金の支払いを拒まれたら?建設業者の対応方法を弁護士が解説
施工不良を理由に工事代金の支払いを拒まれると、建設業者にとっては資金繰りに直結する深刻な問題になります。中には正当なクレームもありますが、必ずしも全額の支払いを拒否できるとは限らず、不当な支払い拒否であるケースも少なくありません。本記事では、施主が支払いを拒める法的根拠から、建設業者がとるべき初期対応、不当な拒否に対する反論や代金回収の進め方、そして訴訟に至った場合の流れまでを弁護士が解説します。施工不良のクレームへの対応に迷っている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
施工不良を理由とした工事代金の支払い拒否が起きる背景
施工不良のクレームと工事代金の支払い拒否は、建設業で頻繁に発生するトラブルです。まずは、どのような場面でこうした問題が起きるのか、その典型的なパターンと建設業者が置かれる状況を整理しておきましょう。
建設業に多い施工不良クレームの典型パターン
施工不良をめぐるクレームには、いくつかの典型的なパターンがあります。代表的なものとしては、壁や床の仕上がりが図面や仕様と異なるという外観上の指摘、雨漏りやひび割れといった機能上の不具合、設備の動作不良などが挙げられます。また、施主が当初想定していた仕上がりと完成物のイメージが食い違い、「契約と違う」と主張されるケースも多く見られます。こうしたクレームは、必ずしも明確な施工ミスがある場合だけでなく、施主側の認識のずれから生じることもあるため、内容を冷静に見極めることが重要になります。
正当なクレームと不当な支払い拒否が混在する実情
施工不良のクレームには、実際に施工に問題があり業者側に責任があるものもあれば、施主の主観的な不満にすぎないものも含まれます。問題なのは、ささいな指摘を理由に工事代金の全額支払いを拒むなど、不当な支払い拒否につながるケースが少なくない点です。仮に一部に手直しが必要な箇所があったとしても、それが代金全額の支払いを拒める理由になるとは限りません。正当なクレームと不当な拒否が入り混じっている場合、業者としては感情論ではなく法的な根拠に基づいて状況を切り分ける必要があります。
放置すると自社経営に直結するリスク
工事代金は建設業者にとって主要な収入源であり、その回収が滞れば資金繰りに直接的な影響を及ぼします。特に下請けへの支払いや材料費の負担を抱えている場合、代金未回収が続くと連鎖的に経営を圧迫しかねません。また、対応を誤って施主とのトラブルが長期化すれば、評判の低下や新たな紛争を招くおそれもあります。施工不良のクレームを安易に放置したり、逆に強引な回収に走ったりするのではなく、早い段階で適切に対処することが経営を守るうえで欠かせません。
施主が工事代金の支払いを拒否できる法的根拠
施主が工事代金の支払いを拒む際には、いくつかの法的根拠が主張されることがあります。建設業者として反論を組み立てるためにも、まずは施主側がどのような理由で支払いを拒否しうるのかを理解しておく必要があります。ここでは代表的な4つの根拠を見ていきます。
工事が完成していない場合(債務不履行)
請負契約において、建設業者は仕事を完成させる義務を負い、施主はその完成に対して代金を支払う義務を負います。そのため、工事がそもそも完成していない場合には、施主は債務不履行を理由に代金の支払いを拒める可能性があります。ここでいう完成とは、予定されていた最後の工程まで一通り終えているかどうかで判断されるのが一般的です。多少の不具合が残っていても工程自体が終了していれば完成とみなされることが多く、未完成かどうかの判断は実務上の争点になりやすい部分です。
契約不適合責任が認められる場合
引き渡された建物や工事の内容が、契約で定めた品質や仕様に適合していない場合には、施主は契約不適合責任を根拠に主張をしてくることがあります。たとえば、約束した材料が使われていない、図面どおりに施工されていないといったケースです。この場合、施主は後述する追完請求や代金減額請求などを行うことができ、その範囲で支払いを拒むことが認められる場合があります。ただし、契約不適合があれば直ちに代金全額を拒否できるわけではない点に注意が必要です。
工期遅延による損害が生じている場合
契約で定めた引渡期日に間に合わず、その遅延によって施主に損害が生じた場合には、施主は遅延損害金や損害賠償を請求できることがあります。この請求権と工事代金の支払いを相殺するという形で、支払いを拒む主張がなされることもあります。ただし、工期の遅延が業者側の責任によるものなのか、悪天候や施主側の都合など正当な理由によるものなのかによって、責任の所在は変わってきます。遅延の原因と経緯を記録で示せるかどうかが重要になります。
同時履行の抗弁権が成立する場合
請負契約では、原則として工事の引渡しと代金の支払いが同時に行われるべきものとされています。そのため、業者側に契約不適合に基づく修補などの義務がある場合、施主はその修補が行われるまで代金の支払いを拒める同時履行の抗弁権を主張できることがあります。もっとも、この抗弁権で拒める範囲は、修補に必要な費用に見合う部分などに限られるのが原則であり、不具合の程度に比べて過大な金額の支払いを拒むことまでは認められないのが通常です。
契約不適合責任の基本と建設業者が負う義務
施工不良トラブルを理解するうえで欠かせないのが、契約不適合責任の知識です。2020年の民法改正によって従来の制度が大きく見直されており、建設業者として正確に把握しておく必要があります。ここでは制度の基本と、施主が請求できる権利、そして責任を問える期間について解説します。
民法改正により「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ
2020年4月に施行された改正民法により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと再構成されました。改正前にあった「隠れた瑕疵」という要件は廃止され、客観的に契約の内容に適合していなければ責任を追及できるようになっています。つまり、引き渡された目的物が種類・品質・数量の点で契約内容に合っていない場合に責任が問われる仕組みです。建設業者にとっては、契約書や仕様書でどのような品質を約束したのかがより重視されるようになったといえます。
施主が請求できる4つの権利(追完・代金減額・損害賠償・契約解除)
契約不適合があった場合、施主は4つの権利を行使できます。具体的には、補修などを求める履行追完請求、不適合の程度に応じた代金減額請求、損害賠償請求、そして契約解除です。原則としてまず修補などの追完を求め、それが行われない場合に代金減額や損害賠償へ進むという流れになります。契約解除は、不適合が軽微である場合には認められないのが通常です。建設業者としては、施主の主張がこのどの権利に基づくものなのかを見極め、求められている対応の範囲を正しく把握することが大切です。
契約不適合責任を問える期間
契約不適合責任には期間の定めがあります。施主は契約不適合を知った時から1年以内にその旨を業者へ通知しなければ、原則として権利を行使できなくなります。そのうえで、通知をしていれば、権利を行使できることを知った時から5年、または引渡しなど権利を行使できる時から10年という消滅時効の範囲で請求が可能とされています。なお、契約書で責任期間に関する特約を定めることもありますが、特約の内容によっては消費者契約法などとの関係で無効と判断される場合があるため、注意が必要です。
施工不良のクレームを受けたときに建設業者がとるべき初期対応
施工不良のクレームを受けた直後の対応は、その後の交渉や紛争の行方を大きく左右します。慌てて謝罪したり、逆に頭ごなしに反論したりするのではなく、まずは事実関係を冷静に確認することが重要です。ここでは初期対応のポイントを整理します。
クレーム内容と根拠を具体的に確認する
最初に行うべきは、施主がどの部分について、どのような理由で不満を抱いているのかを具体的に確認することです。「仕上がりが悪い」といった抽象的な指摘にとどまる場合も多いため、どの箇所が、契約や仕様のどの内容に適合していないと考えているのかを丁寧に聞き取る必要があります。クレームの根拠が契約書や図面に基づくものなのか、それとも施主の主観的なイメージにすぎないのかを切り分けることで、その後の対応方針が定まります。安易に非を認める発言をしないよう注意することも大切です。
現場・施工記録・契約書類を整理する
クレームへの対応では、客観的な証拠をどれだけ揃えられるかが結果を大きく左右します。契約書や仕様書、図面はもちろん、施工中の写真や作業日報、検査記録、施主とのやり取りの記録などを早い段階で整理しておきましょう。これらの資料は、施工が契約内容どおりに行われたことや、不具合の原因がどこにあるのかを示すうえで重要な役割を果たします。時間が経つほど記録の収集は難しくなるため、クレームを受けたら速やかに関係資料を確認し、保全しておくことが望まれます。
感情的な対応を避け書面で記録を残す
施主とのやり取りが感情的になると、トラブルがこじれて解決が遠のくおそれがあります。クレーム対応では冷静さを保ち、口頭でのやり取りだけで済ませず、重要なやり取りは書面やメールなど記録に残る形で行うことが大切です。後に交渉や訴訟になった際、どのような対応をしてきたかを客観的に示せるかどうかが業者を守ることにつながります。特に補修の約束や費用負担に関する取り決めは、必ず書面で残すようにしておきましょう。
不当な支払い拒否に対する反論と回収の進め方
施工に問題がないにもかかわらず代金の支払いを拒まれている場合や、不具合の程度に比べて過大な支払い拒否がなされている場合には、建設業者として適切に反論し、代金を回収していく必要があります。ここでは、その具体的な進め方を解説します。
客観的証拠に基づき施主の主張を分析する
反論を組み立てる出発点は、施主の主張が法的に正当なものかどうかを客観的な証拠に基づいて分析することです。施主が指摘する不具合が本当に契約不適合にあたるのか、それとも通常の範囲内の仕上がりなのかを、契約書や仕様書、施工記録と照らし合わせて検討します。仮に一部に契約不適合が認められるとしても、それが代金全額の支払いを拒める根拠になるのか、それとも一部の代金減額にとどまるのかを冷静に見極めることが重要です。この分析を誤ると、交渉での主張がぶれてしまいます。
代金全額の支払い拒否が認められない場合の反論
施主が一部の不具合を理由に代金全額の支払いを拒んでいる場合、その拒否がすべて認められるとは限りません。同時履行の抗弁権で拒める範囲は、修補に必要な費用などに見合う部分に限られるのが原則であり、それを超える部分については支払いを求めることができます。建設業者としては、不具合の範囲と程度、修補に要する費用を具体的に示したうえで、拒否できる金額には限界があることを根拠とともに伝えていくことになります。理屈に基づいた反論ができれば、交渉を有利に進めやすくなります。
弁護士名義の内容証明郵便による交渉
当事者同士の話し合いで解決しない場合には、弁護士名義の内容証明郵便を送付して交渉を進める方法があります。内容証明郵便は、いつ、どのような内容の通知を送ったかを公的に証明できる手段であり、業者側が本気で代金回収に取り組む姿勢を示すことにもなります。弁護士が代理人として法的根拠を整理した文書を送ることで、施主側も対応を真剣に検討せざるを得なくなり、交渉が前進するケースは少なくありません。感情的な対立を避けつつ解決を図るうえでも有効な手段といえます。
交渉が難航する場合の建設工事紛争審査会の活用
交渉での解決が難しい場合には、建設工事紛争審査会の利用も選択肢になります。これは建設工事の請負契約に関する紛争を専門的に扱う公的な機関で、あっせん・調停・仲裁といった手続きを通じて解決を図るものです。建設に関する専門知識を持つ委員が関与するため、技術的な争点を含む紛争でも実情に即した解決が期待できます。訴訟に比べて手続きが比較的柔軟で、専門性の高い判断が得られる点がメリットです。交渉が行き詰まったときの解決手段の一つとして知っておくとよいでしょう。
訴訟・法的手続きに進む場合の流れと注意点
交渉や紛争審査会でも解決に至らない場合には、訴訟などの法的手続きを検討することになります。訴訟は時間も労力もかかるため、進める前に流れと注意点を理解しておくことが大切です。ここでは主なポイントを解説します。
仮差押えによる相手方財産の保全
訴訟には一定の時間がかかるため、その間に施主の財産が散逸してしまうと、勝訴しても代金を回収できないおそれがあります。こうした事態を防ぐ手段として、仮差押えという手続きがあります。仮差押えは、訴訟の前または並行して相手方の預金や不動産などを暫定的に押さえ、財産が処分されるのを防ぐものです。代金回収の実効性を確保するうえで重要な手段ですが、申立てには一定の要件や担保の提供が必要になるため、弁護士と相談しながら進めることが望まれます。
訴訟提起と損害賠償請求への備え
交渉での解決が見込めない場合には、訴訟を提起して工事代金の支払いを求めることになります。訴訟では、施工が契約内容どおりに行われたこと、あるいは不具合があったとしてもその程度や責任の所在を、証拠に基づいて主張立証していく必要があります。逆に施主側から損害賠償を請求されることもあるため、双方の主張を見据えた準備が求められます。これまで整理してきた契約書類や施工記録が、ここで大きな役割を果たします。訴訟は専門的な手続きであり、弁護士の関与が不可欠です。
建築士など専門家の協力を得る重要性
施工不良が争点となる訴訟では、その不具合が本当に契約不適合といえるのか、補修にどの程度の費用がかかるのかといった技術的な判断が必要になります。こうした点については、建築士などの専門家の協力を得ることが極めて重要です。専門家による調査結果や意見書は、業者側の主張を客観的に裏づける有力な証拠となります。法律と建築の両面から検討を進めることで、より説得力のある主張が可能になります。弁護士と専門家が連携して対応できる体制が整っていると安心です。
施工不良トラブルを未然に防ぐための予防策
施工不良をめぐるトラブルは、発生してから対応するよりも、未然に防ぐことが理想です。日頃から契約や記録の管理を徹底し、リスクを減らしておくことで、いざというときに自社を守ることができます。ここでは具体的な予防策を紹介します。
契約書・仕様書の整備と検査記録の徹底
施工不良のトラブルの多くは、何をどこまで行うのかという取り決めが曖昧だったことに起因します。これを防ぐには、契約書や仕様書で工事の範囲や品質基準を明確に定めておくことが基本です。また、各工程での検査記録や施工写真を残しておくことで、契約どおりに施工したことを後から客観的に示せるようになります。こうした記録は、クレームが発生した際に業者を守る有力な証拠となります。日常の業務として記録を残す習慣を社内に定着させることが、トラブル予防の第一歩です。
追加・変更工事の合意を書面で残す
工事の途中で施主から追加や変更の要望が出ることは珍しくありません。このとき、口頭でのやり取りだけで進めてしまうと、後になって「依頼していない」「費用は聞いていない」といった争いが生じやすくなります。追加・変更工事については、その内容と費用、工期への影響などを必ず書面で合意しておくことが重要です。書面に残しておけば、代金請求の根拠が明確になり、不当な支払い拒否を防ぐことにもつながります。手間に感じても、後のトラブルを避けるために欠かせない対応です。
顧問弁護士による継続的なリスク管理
施工不良をはじめとする建設業のトラブルを継続的に防いでいくには、顧問弁護士によるリスク管理が有効です。顧問弁護士がいれば、契約書のチェックや日常的な法律相談を通じて、トラブルの芽を早い段階で摘むことができます。また、実際にクレームが発生した際にも、自社の状況を把握している弁護士へすぐに相談できるため、初動対応をスムーズに進められます。トラブルが起きてから対応するよりも、平時から備えておくことが、結果として経営の安定につながります。
施工不良クレームでお困りの建設業経営者の方は宇都宮東法律事務所へご相談ください
施工不良を理由とした工事代金の支払い拒否は、対応を誤ると資金繰りや経営に大きな影響を及ぼしかねない問題です。正当なクレームと不当な支払い拒否を見極め、法的根拠に基づいて適切に反論し、確実に代金を回収していくためには、専門的な知識と経験が欠かせません。
宇都宮東法律事務所は、栃木県内でも最大規模の体制を備えた法律事務所です。9名の弁護士が在籍し、建設業をはじめとする企業の契約トラブルや代金回収、紛争対応に幅広く対応してまいりました。施工不良のクレーム対応では、初期対応の助言から内容証明郵便による交渉、建設工事紛争審査会の活用、訴訟対応まで、状況に応じた一貫したサポートを行います。必要に応じて建築の専門家とも連携し、技術と法律の両面から解決を図ります。
栃木県全域および関東エリアの建設業経営者の皆さまからのご相談をお受けしております。施工不良のクレームや工事代金の未回収でお困りの際は、問題が大きくなる前に、できるだけ早い段階で宇都宮東法律事務所までご相談ください。