カスタマーハラスメント対策が2026年10月から義務化|企業が講ずべき6つの措置と実務対応

カスハラ対策の義務化と企業の対応

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応が、すべての事業主にとって法律上の義務になりました。従業員を1人でも雇用していれば対象となり、業種や規模による例外はありません。栃木県でも2026年4月1日に県独自の防止条例が施行されており、県内企業にとっては法律と条例の両面から対応が求められる状況です。

本記事では、カスハラの法律上の定義から、企業が講じなければならない具体的な措置、就業規則の整備方法、実際にカスハラが起きた場合の法的対応まで、経営者や人事担当者の視点で整理して解説します。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

改正労働施策総合推進法におけるカスハラの定義

改正後の労働施策総合推進法33条は、カスハラを「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(顧客等言動)により当該労働者の就業環境が害されること」と定義しています。

ポイントは、行為者が「顧客」に限られていないことです。取引先の担当者や施設の利用者も含まれるため、一般消費者を相手にしていないBtoBの企業であっても無関係ではありません。厚生労働省が2026年2月26日に公表した指針でも、BtoBの取引先担当者が含まれること、店舗での対面行為だけでなくSNSなどインターネット上の言動も対象になることが明記されています。

カスハラ成立の3要件

定義を分解すると、カスハラが成立するには次の3つをすべて満たす必要があります。

1. 行為者が顧客等(事業に関係を有する者)であること

2. その言動が社会通念上許容される範囲を超えていること

3. その言動によって労働者の就業環境が害されること

社内の上司から部下への言動はパワハラ、取引上の優越的地位を背景とした言動は下請法や独占禁止法の問題として、それぞれ別の枠組みで整理されます。まずは自社で起きている問題がどの枠組みに当たるのかを見極めることが、対応の第一歩になります。

関連記事:パワハラ発生時に企業がとるべき対応とは|必要な体制づくりや対応の注意点を解説

正当なクレームとの違い

商品の欠陥の指摘やサービスへの改善要望は、企業にとって貴重な情報であり、カスハラには当たりません。指針でも、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであり、カスハラに該当しないと説明されています。

境界線を分けるのは、要求の内容と、その伝え方の2つです。要求内容が正当であっても、同じ質問を執拗に繰り返す、長時間居座る、大声で威圧するといった手段や態様が行き過ぎていれば、カスハラと評価される可能性があります。逆に、伝え方が穏やかでも、契約内容を著しく超えるサービスや不当な損害賠償を求める要求は、内容面で許容範囲を超えていると判断されます。

カスハラに該当する行為の具体例

指針は、社会通念上許容される範囲を超えた言動を、内容によるものと手段や態様によるものに分けて例示しています。

内容面では、商品やサービスと無関係な要求、労働者のプライバシーに関わる要求や性的な要求、契約で想定されたサービスを著しく超える要求、契約金額の著しい減額要求、不当な損害賠償請求などが挙げられています。

手段や態様の面では、殴る蹴るなどの身体的攻撃、物を投げつける行為、土下座の強要、人格を否定する暴言、SNSへの悪評投稿をほのめかす脅し、盗撮や無断撮影、同じ内容のメールを執拗に送り続ける行為、長時間の居座りや電話による拘束などが示されています。これらは限定列挙ではないため、例示に当てはまらない行為が直ちにカスハラでないとは言えない点に注意が必要です。

2026年10月1日施行 カスハラ対策義務化の全体像

改正法の成立から施行までの経緯

カスハラ対策を事業主の義務とする改正法は、2025年6月4日に国会で可決成立し、同年6月11日に公布されました。その後、企業が具体的に何をすべきかを示す指針が2026年2月26日に公表され、施行日は政令によって2026年10月1日と定められています。

この間、自治体レベルでも動きが進みました。2024年10月に制定された東京都のカスタマー・ハラスメント防止条例が2025年4月に施行されたのを皮切りに、栃木県でも2026年4月1日に防止条例が施行されています。国の法律と自治体の条例が並行して整備された分野であり、企業は両方を確認しておく必要があります。

対象となる事業主の範囲

対象は「事業主」と広く定められており、労働者を1人でも雇用していれば該当すると考えられます。中小企業に対する猶予期間や経過措置は設けられていないため、大企業も個人事業主も、2026年10月1日から同じように措置を講じなければなりません。

また、雇用形態も問いません。正社員だけでなく、パートタイム労働者やアルバイト、契約社員も保護の対象です。派遣労働者については、派遣元だけでなく、実際に就業している派遣先企業も措置を講じる立場に立ちます。自社の従業員名簿に載っていない人材が現場にいる企業ほど、対応範囲の確認が重要になります。

事業主に課される義務の内容

改正法が事業主に求めているのは、雇用管理上の措置を講じる義務です。具体的には、労働者からの相談に応じて適切に対応するための体制整備と、就業環境を害する言動を抑止するために必要な措置を中心とします。すでにセクハラ、パワハラ、マタハラ、ケアハラで導入されている枠組みに、カスハラが5つ目として加わる形です。

関連記事:ハラスメント対応

あわせて、労働者がカスハラの相談をしたことや、事実関係の確認に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています(33条2項)。他の事業主から協力を求められた場合に協力する努力義務(33条3項)も定められました。

措置義務違反のペナルティ

措置義務に違反した場合、直ちに刑事罰が科されるわけではありません。しかし、厚生労働大臣による報告の徴収、助言、指導、勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表される可能性があります。

罰金刑がないことをもって軽く考えるのは危険です。公表は事実上の制裁として機能し、SNSや口コミサイトを通じて短時間で拡散します。採用活動への影響、取引先からの信用低下、既存従業員の離職といった二次的な損失は、罰金の比ではありません。人手不足が慢性化している栃木県内の企業にとって、採用市場での評判低下は経営に直結する問題といえます。

安全配慮義務違反による民事賠償リスク

行政上の措置とは別に、民事上の責任も想定しておく必要があります。使用者は労働契約法5条により、労働者の生命や身体の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務を負っています。カスハラ被害を把握しながら放置し、従業員が精神疾患を発症したような場合には、この安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求される可能性があります。

10月の施行以降は、指針で示された措置を講じていたかどうかが、配慮を尽くしたかを判断する事実上の基準として参照されることが予想されます。措置を講じていない状態は、行政対応のリスクであると同時に、民事訴訟における不利な事情にもなり得ます。

労災認定や離職につながるリスク

カスハラを原因とする精神障害は、労災認定の対象になり得ます。厚生労働省の精神障害の労災認定基準では、顧客や取引先からの著しい迷惑行為が心理的負荷の評価対象として位置づけられており、実際に認定されるケースも報告されています。

労災が認定されれば、保険給付とは別に会社の責任が問われる可能性が高まり、労働基準監督署の調査対応にも人的コストがかかります。加えて、被害を受けた従業員が退職すれば、採用と教育にかけたコストも失われます。カスハラ対策は、法令対応であると同時に人材の定着策でもあると捉えることが大切です。

企業が講ずべき6つの雇用管理上の措置

指針は、必ず講じなければならない措置として、方針の明確化、相談体制の整備、事後対応、抑止措置という4つの柱を示し、これらに併せて講ずべき措置を定めています。ここでは実務で取り組む順序に沿って、6つに整理して解説します。

1.事業主の方針の明確化と周知啓発

最初に取り組むべきは、カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護するという方針を明確にし、社内に周知することです。社内報や社内ポータル、パンフレットへの掲載に加え、経営トップからのメッセージとして発信すると、現場の受け止め方が変わります。

方針と併せて、カスハラの内容と対処方法を定めることも求められています。指針では、労働者から管理監督者へ直ちに報告して指示を仰ぐこと、可能な限り1人で対応させないこと、必要に応じて管理監督者が代わって対応すること、犯罪に該当し得る言動は警察に通報することなどが対応例として示されています。これらを対応規程やマニュアルに落とし込み、研修を通じて周知するところまでが1つ目の措置です。

2.相談窓口の設置と相談体制の整備

次に、労働者がカスハラについて相談できる窓口を定め、その存在を周知する必要があります。窓口は社内に設ける方法のほか、外部機関に委託する方法も認められています。中小企業では、担当者が上司との兼務になり相談しにくいという実態があるため、外部窓口の活用が有効な選択肢になります。

関連記事:【ハラスメント対応】外部相談窓口として従業員からの通報に対応し、企業の初動をサポートした事例

重要なのは、窓口を置くだけで終わらせないことです。指針は、カスハラに当たるかどうかの判断が微妙な場合も含めて広く相談に応じること、担当者と関係部門が連携できる仕組みをつくること、対応マニュアルを整備して担当者に研修を行うことを求めています。相談件数がゼロの窓口は、問題がないのではなく機能していないと疑うべきです。

3.事後の迅速かつ適切な対応と事実関係の確認

相談があった場合には、事実関係を迅速かつ正確に確認しなければなりません。管理監督者がその場で確認して対応する方法のほか、相談窓口の担当者や関係部門が相談者から聴き取る方法があります。その際、相談者の心身の状況や受け止め方に配慮することが求められています。

必要に応じて周囲の従業員から聴取したり、録音や録画といった客観的な証拠を確認したりする措置も示されています。ただし、録音や録画の取扱いにあたっては個人情報保護法などを遵守し、顧客の個人情報を適切に管理することが前提です。事実確認が困難な場合には、都道府県労働局の紛争調整委員会による調停など、中立的な第三者に紛争処理を委ねる選択肢もあります。

4.被害者への配慮と再発防止に向けた措置

カスハラが確認できた場合は、速やかに被害者への配慮措置を行う必要があります。管理監督者が代わって対応する、担当者を変更する、複数人で対応する、被害者と行為者を引き離す、産業保健スタッフによるメンタルヘルス面の相談対応を行うといった措置が例示されています。犯罪に該当し得る言動については警察への通報も選択肢です。

さらに、再発防止に向けた措置も必要です。接客における慣行の見直しや職場環境の改善、事案の内容と対応経緯の記録と関係部門への共有などが挙げられています。注目すべきは、カスハラの事実が確認できなかった場合にも、必要に応じて同様の措置を講ずることが求められている点です。白黒がつかない事案こそ、記録と振り返りが次の対応を支えます。

5.悪質な行為を抑止するための措置

対応の実効性を確保するため、特に悪質と考えられる行為への対処方針をあらかじめ定めておくことも義務づけられています。指針では、犯罪に該当し得る言動の警察への通報、警告文の発出、法令の制限内での商品販売やサービス提供の停止、店舗や施設への出入禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てなどが例示されています。

この方針は労働者に周知し、実際に対処できる体制を整えるところまでが求められます。現場が判断に迷ってその場しのぎの謝罪を重ねる状態が最も危険です。どの段階で誰が対応を打ち切るのか、どこから法務や顧問弁護士につなぐのかを、あらかじめ線引きしておくことが実効性につながります。

関連記事:顧問弁護士をお探しの方へ

6.プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止

以上の措置を講じるにあたっては、併せて2つの措置が必要とされています。1つは、相談者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知することです。性的指向やジェンダーアイデンティティなどの機微な個人情報も保護の対象に含まれます。

もう1つは、カスハラについて相談したこと、事実確認に協力したこと、労働局への相談や調停の申請を行ったことなどを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしない旨を定め、労働者に周知啓発することです。就業規則などの文書に明記する方法が例示されています。相談したことで評価が下がるという不安が残る限り、窓口は使われません。

就業規則と社内規程の整備方法

就業規則に盛り込むべき内容

方針の明確化を実現する最も確実な方法は、就業規則や服務規律にカスハラに関する定めを置くことです。カスハラを容認しないという会社の姿勢、想定される行為の類型、発生時の報告ルート、会社が行う対応の内容を盛り込みます。

併せて、相談したことを理由とする不利益取扱いを行わない旨の規定も必要です。指針が就業規則等への規定を対応例として挙げているため、この一文があるかどうかは、措置を講じたかどうかの分かりやすい指標になります。法律はすでに施行されていますので、既存の就業規則を早急に点検し、改定が必要な箇所を洗い出しておくとよいでしょう。

カスハラ対応マニュアルの作成手順

就業規則が会社としての方針だとすれば、マニュアルは現場が動くための手順書です。作成にあたっては、まず自社で実際に起きた事案を集めることから始めます。業種や店舗によって発生する場面は異なるため、他社のひな形をそのまま使っても現場では機能しません。

集めた事案をもとに、初期対応、上位者への報告基準、対応を打ち切る基準、警察や弁護士への相談基準を段階的に整理します。誰が判断するかを明記し、担当者が個人の判断で背負い込まない構造にすることが重要です。作成後は研修とロールプレイングで浸透させ、実際の運用を踏まえて定期的に見直します。

対外的な方針表明の効果

方針は社内に周知するだけでなく、外部に示すことも有効です。自社のウェブサイトや店頭の掲示で、カスハラに対しては毅然と対応する旨を表明しておけば、行為の抑止につながるだけでなく、後にサービス提供を拒否する際の説明もしやすくなります。

近年は、大手企業だけでなく地域の中小企業や医療機関でも方針の掲示が広がっています。従業員にとっては、会社が守ってくれるという明確なメッセージとなり、採用の場面でも働きやすさを示す材料になります。

労働者への周知と手続上の注意点

就業規則を変更した場合は、労働者への周知が必要です。カスハラに関する規定の新設は、従業員を保護する方向の内容であるため不利益変更の問題は生じにくいものの、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、意見聴取と労働基準監督署への届出という手続を経る必要があります。

届出や周知には一定の期間がかかります。法律はすでに施行されているため、規程の案文づくりにはすぐに着手するのが安全です。マニュアルや研修の準備と並行して進めることをおすすめします。

栃木県カスタマーハラスメント防止条例と改正法の関係

2026年4月に施行された県条例の内容

栃木県では、栃木県カスタマーハラスメント防止条例が2026年4月1日に施行されました。条例は、何人もあらゆる場においてカスハラを行ってはならないという禁止規定を置き、顧客等、就業者、事業者それぞれの責務を定めています。事業者の責務としては、体制の整備が挙げられています。

条例に罰則は設けられておらず、どのような行為がカスハラに当たるかは、条例とは別に策定された基本指針で示されています。基本指針は2026年4月1日に公表され、基本理念、各主体の定義と責務、カスハラの定義、県の施策、事業者に求められる取組などを定めています。

条例と改正法はどう違うのか

改正労働施策総合推進法が事業主に対して雇用管理上の措置義務を課すのに対し、県条例は顧客を含む社会全体に向けて防止の理念と責務を示すという役割分担になっています。条例に違反しても罰則はありませんが、法律上の措置義務は行政指導や公表の対象になります。

栃木県内に事業所を置く企業にとっては、県条例で示された考え方を踏まえつつ、10月に施行された法律に沿って具体的な措置を整えるという二段構えの対応になります。県条例の基本指針は、県内の実情に即した内容になっているため、社内マニュアルを作る際の参考資料としても有用です。

県の支援制度を活用する

栃木県は、条例に基づく施策として、事業者向けの相談窓口を開設し、専門家をアドバイザーとして派遣する制度を2026年6月から始めています。対象は県内に事業所を有する事業者と業界団体で、対応マニュアルの策定などを支援する内容です。

また、県は受け付けた相談内容と事業者の対応を公表する取組を全国で初めて進めるとしています。他社がどのような場面で悩み、どう対応したのかを知ることができる貴重な情報源になりますので、自社の体制づくりの参考として確認しておくとよいでしょう。

業種別に見たカスハラ対策の重点ポイント

小売業と飲食業

不特定多数の顧客と対面する小売業や飲食業は、カスハラが最も発生しやすい業種です。現場の従業員が単独で対応する場面が多く、若手やアルバイトが矢面に立ちやすいという構造的な課題があります。

関連記事:飲食業

重点は、対応を1人に背負わせない仕組みづくりです。一定時間を超えたら責任者に交代する、複数名で対応する、防犯カメラの録画を活用するといったルールをあらかじめ決めておきます。店頭にカスハラ対応方針を掲示しておけば、対応を打ち切る際の根拠としても機能します。

医療機関と介護福祉施設

医療や介護の現場では、患者や利用者、その家族からの過度な要求という形でカスハラが表れます。生命や健康に関わるサービスであるため感情的な訴えが生じやすく、また継続的な関係であるがゆえに拒絶しにくいという難しさがあります。

関連記事:医療機関・クリニック経営者様へ

対応の判断が個々の職員に委ねられると、現場は疲弊します。診療や介護サービスの提供を断る場合には、医師法上の応招義務や介護保険法上のサービス提供拒否の制限との関係を整理しておく必要があるため、あらかじめ弁護士に相談しながら基準を作っておくことが安全です。

建設業と運送業に多いBtoBのカスハラ

栃木県内に多い建設業や運送業では、一般消費者ではなく取引先の担当者からの言動が問題になります。発注者から現場の作業員への暴言、無理な工期の押し付け、契約範囲を超えた作業の要求などが典型です。

関連記事:栃木・宇都宮で弁護士をお探しの建設業の方へ

取引を打ち切られることを恐れて我慢する構図になりやすいのが、この分野の難しさです。改正法は、他の事業主から協力を求められた場合に協力する努力義務を定めており、相手企業に対して事実確認への協力を求める道が開かれました。まずは日時と内容を記録に残し、社内で共有することから始めてください。

中小企業が優先すべき最低限の対応

限られた人員で、すぐに完璧な体制を整えるのは容易ではありません。優先順位を付けるとすれば、方針の明確化と周知、相談窓口の設置と周知、対応手順の作成という3点が出発点になります。

この3点は、いずれも指針が求める措置の中核であり、コストをかけずに着手できる部分でもあります。まずこの形を整えたうえで、研修や記録の仕組み、悪質事案への対処方針を順次追加していく進め方が現実的です。

カスハラが発生した場合の法的対応

サービス提供の拒絶は認められるか

悪質な要求を繰り返す顧客に対して、商品の販売やサービスの提供を断ることは、原則として可能です。契約自由の原則により、誰と契約するかは事業者が判断できるためで、指針でも、法令の制限内において行為者に商品の販売やサービスの提供をしないことが対処例として挙げられています。

関連記事:消費者トラブル・クレーマー

ただし、業種によっては制限があります。医師の応招義務のように、正当な事由がなければ拒めない場面があるほか、既存の契約に基づく債務がある場合には、一方的な履行拒絶が債務不履行と評価されるおそれもあります。出入禁止を伝える場合は、根拠と経緯を記録に残し、通知の方法についても慎重に検討することが望まれます。

記録と録音の取り方と個人情報保護

カスハラ対応において、記録は最大の武器になります。発生日時、場所、当事者、具体的な言動、対応内容を、できるだけその日のうちに残しておきます。後日、警告書を出す場面でも、刑事告訴を検討する場面でも、記録の有無が結論を左右します。

通話の録音は、当事者の一方が録音する限り違法ではありません。指針も録音や録画を対応例として示していますが、その際は個人情報保護法などを遵守し、顧客の個人情報を適切に取り扱うことが前提とされています。録音した音声の保管期間、閲覧できる範囲、廃棄のルールを社内で定めておくと安心です。

警告書の送付、仮処分、刑事告訴

対応が長期化する場合には、法的手段を検討します。まず弁護士名義の警告書を送付し、以後の連絡は弁護士が窓口となる旨を伝えるだけでも、行為が止まるケースは少なくありません。それでも来店や電話が繰り返される場合には、民事保全法に基づく面談強要禁止などの仮処分を申し立てる方法があります。

暴行、傷害、脅迫、強要、名誉毀損、侮辱、威力業務妨害、不退去といった行為は刑法上の犯罪に当たり得ます。刑事告訴を行うかどうかは事案の性質と経営判断によりますが、その場で犯罪に該当し得る言動があった場合には、警察への通報をためらう必要はありません。

SNSや口コミサイトでの誹謗中傷への対応

インターネット上の投稿も、職場におけるカスハラに含まれます。事実に反する投稿や従業員個人を攻撃する投稿については、サイト運営者への削除請求のほか、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求という手段があります。

関連記事:IT・インターネットトラブル

反論を書き込む、投稿者を特定しようと社内で動くといった対応は、事態を悪化させることがあります。投稿画面のスクリーンショットとURL、投稿日時を保全したうえで、削除請求と法的措置のどちらを選ぶか、弁護士とともに判断することをおすすめします。

今すぐ確認しておきたいチェックリスト

体制整備の進捗を確認する項目

自社の準備状況は、次の項目で点検できます。カスハラに対する方針を明文化し、社内に周知しているか。就業規則や服務規律に規定を設けているか。相談窓口を定め、全従業員に周知しているか。相談担当者向けのマニュアルと研修を用意しているか。

さらに、事実確認と記録の手順を定めているか。悪質な事案への対処方針を決め、周知しているか。相談者のプライバシー保護と不利益取扱い禁止を明記しているか。これらのうち空欄が残っている項目が、早急に埋めるべき課題です。

体制整備のスケジュールの立て方

まだ体制が整っていない場合は、まず現状把握と方針の決定を行い、次に就業規則とマニュアルの整備、その後に相談窓口の設置と周知、最後に従業員研修という順序が基本になります。就業規則の変更には意見聴取と届出の手続が必要になるため、規程関係は早めに着手しておくと余裕が生まれます。

現場で実際に運用してみると、判断に迷う場面や連絡ルートの詰まりが見つかります。体制を整えて終わりにするのではなく、一度試して修正する時間まで含めて計画を立てておくと、その後の運用が安定します。

すぐにすべてを整えられない場合の優先順位

準備が遅れている場合でも、着手しないよりは部分的にでも進めるほうが確実に有利です。優先すべきは、方針の明文化と周知、相談窓口の設置と周知の2点です。この2つは指針が求める措置の入口であり、外形的にも整えやすい部分です。

そのうえで、対応手順を簡潔な一枚の資料にまとめて現場に配布します。詳細なマニュアルは後から作り込めば足ります。何も決まっていない状態のまま放置することだけは避けたいところです。

カスハラ対策のご相談は宇都宮東法律事務所へ

カスハラ対策の義務化は、これまで現場の我慢に委ねられてきた問題を、会社の仕組みとして解決することを求めるものです。就業規則の整備、マニュアルの作成、相談窓口の設計、実際に発生した事案への対応と、必要な作業は多岐にわたります。

宇都宮東法律事務所は、弁護士9名を擁する栃木県最大規模の法律事務所として、県内企業の労務問題に取り組んでまいりました。従業員のメンタル面を支えるEAP(従業員支援プログラム)にも力を入れており、カスハラ相談の外部窓口としての機能もご提供しています。

関連記事:栃木・宇都宮市の弁護士による従業員支援プログラム(EAP)

体制づくりを何から始めるべきか、現在の就業規則で足りるのか、今まさに対応に困っている顧客がいる。どの段階のご相談でも構いません。トラブルが起きてから対処するのではなく、未然に防ぐパートナーとして、お気軽にご相談ください。

関連記事はこちら