就活セクハラ防止措置の義務化とは?面接・OB訪問で企業が講ずべき対策を弁護士が解説

2026年10月1日から、改正男女雇用機会均等法により、全ての事業主に「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」(いわゆる就活セクハラ)の防止措置が義務付けられました。
これまでのセクハラ防止措置は、自社で雇用する労働者が対象でした。今回の改正により、就職活動中の学生や中途採用の応募者、インターンシップ参加者など、自社と雇用関係にない人も保護の対象に加わっています。すでに社内向けのセクハラ対策を整えている企業でも、採用活動の場面に合わせた追加の対応が必要です。
施行に合わせて、OB・OG訪問マッチングサービスの利用禁止や、個人のSNSでの学生とのやり取りの禁止など、採用現場のルールを具体的に定める企業も出てきています。
本記事では、就活セクハラ防止措置の内容と、企業が採用活動で講ずべき対策について解説します。
就活セクハラ防止措置の義務化とは
改正男女雇用機会均等法の概要
就活セクハラ防止措置は、2025年6月11日に公布された改正男女雇用機会均等法に基づくもので、2026年10月1日に施行されました。
改正法により、事業主は、性的な言動によって求職者等の求職活動等が妨げられないよう、相談に応じて適切に対応するための体制整備など、雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられました(改正男女雇用機会均等法13条1項)。
措置の具体的な内容は、厚生労働省の「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下「就活セクハラ指針」)に定められています。この指針は、2026年2月26日に厚生労働省告示として公表されました。
従来の社内セクハラ対策との違い
自社で雇用する労働者へのセクハラについては、以前から事業主に防止措置が義務付けられていました(男女雇用機会均等法11条1項)。
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一方、就職活動中の学生などについては、従来の指針で「セクハラを行ってはならない旨の方針を示すことが望ましい」とされるにとどまっていました。今回の改正により、方針の表明にとどまらず、相談体制の整備などの具体的な措置を講じることが法的な義務になりました。
なお、同じ一連の法改正で、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策も事業主の義務となっています。
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中小企業を含む全ての事業主が対象
就活セクハラ防止措置は、従業員規模を問わず全ての事業主に課されています。中小企業に対する適用猶予はありません。
「新卒採用をしていないから関係ない」と考える企業もあるかもしれません。しかし、後述するとおり中途採用の応募者や実習生も保護の対象となるため、採用活動を行う全ての企業で対応が必要です。
保護の対象となる「求職者等」の範囲
「求職者等」に含まれる3つの類型
保護の対象となる「求職者等」には、次の3つが含まれます(改正男女雇用機会均等法施行規則)。
- 求職者(新卒の就職活動中の学生、中途採用の応募者など)
- 事業主が実施する、労働者の採用に資する活動に参加する者(インターンシップ参加者など)
- 教育実習、看護実習その他の実習を受ける者
医療機関や介護施設で看護実習生を受け入れる場合や、学校で教育実習生を受け入れる場合も対象になる点に注意が必要です。
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内定者の扱い
内定者の扱いは、内定によって労働契約が成立しているかどうかで分かれます。
内定通知のほかに労働契約を結ぶための手続きが予定されていない場合など、労働契約が成立していると認められる内定者は、社内の労働者としてセクハラ防止措置の対象になります。労働契約が成立していない段階の内定者は「求職者等」に当たります。
いずれの場合も防止措置の対象となるため、企業としては、内定者も含めて対策を講じておくことが求められます。
対象となる「求職活動等」の場面
面接・会社説明会以外の場面も含まれる
就活セクハラの対象となる「求職活動等」は、採用面接や会社説明会に限られません。OB・OG訪問、インターンシップ、実習も含まれます。
採用担当者だけでなく、OB・OG訪問に対応する若手社員や、インターン生の指導を担当する現場の社員も、行為者になり得ることを意識しておく必要があります。
社外の飲食店やSNS・オンラインも対象
場所も社内に限られません。OB・OG訪問で使う飲食店、説明会を行う貸会議室や大学のキャンパスなども含まれます。
また、SNSなどオンラインでのやり取りや、オンラインで行う面接・説明会も対象です。社員が個人のアカウントで学生と連絡を取る場面は、外部から見えにくく、トラブルが起きやすい場面の一つです。
「懇親会」でも対象になり得る
選考や説明会の時間外に開かれる「懇親会」であっても、実質的に採用活動や実習の延長と考えられる場であれば、求職活動等に当たります。
「業務時間外の私的な集まりだから会社は関係ない」とは言い切れない点に注意が必要です。
就活セクハラに当たる言動
「性的な言動」の2類型
就活セクハラ指針では、「性的な言動」を次の2つに分けて示しています。
- 性的な内容の発言:性的な事実関係を尋ねる、性的な内容の情報を意図的に広めるなど
- 性的な行動:性的な関係を強要する、必要なく身体に触れる、わいせつな図画を配布するなど
指針が示す典型例
就活セクハラ指針では、次のような場面が典型例として挙げられています。
- 少人数の説明会で、社員が求職者の身体に触れ、求職者が苦痛を感じて就職活動への意欲が下がった
- インターンシップ中に、社員が性的な冗談やからかいを意図的に繰り返し、求職者が活動に集中できなくなった
- インターンシップの場で、性的な内容を含むポスターや画面表示があり、求職者が苦痛を感じて活動に集中できなくなった
- 面接で、面接官から性的な事実に関する質問を受け、求職者が苦痛を感じた
- OB・OG訪問の際に、社員から性的な関係を求められた
- インターンシップ中に、社員から私的な食事にしつこく誘われた
採用現場で起こりやすい不適切な言動の例
指針の典型例を踏まえると、例えば次のような言動は就活セクハラに当たる可能性が高いと考えられます。
- 面接やインターン後の懇親会で、交際相手の有無や好みのタイプを尋ねる
- 「食事に行ってくれたら次の選考で有利にする」とほのめかす
- オンライン面接で、必要もないのに全身を映すよう求める
- 面接や説明会の後、見送りの際に必要もなく肩や手に触れる
- 個人のSNSやLINEで連絡先を聞き出し、私的な誘いを繰り返す
「雑談のつもり」でも問題になる理由
面接官からは「緊張をほぐすための雑談だった」「人柄を知るための質問だった」という声が聞かれることがあります。
しかし、求職者は「断ったら選考で不利になるのではないか」という不安から、その場で拒否や抗議をしにくい立場にあります。社員同士の関係以上に、両者の立場の差が大きいのが就活セクハラの特徴です。
本人に悪意がなくても、受け手が苦痛を感じて求職活動に支障が生じれば、問題となり得ます。面接で私生活に関わる質問をする必要があるのか、採用の場での言動を一度見直すことが大切です。
企業が講ずべき4つの措置
就活セクハラ指針では、事業主が講ずべき措置を4つに分けて定めています。これらは「望ましい取り組み」ではなく、全ての事業主が講じなければならない措置です。
社内向けのセクハラ対策と共通する部分も多いですが、「採用活動のルールの明確化」と「求職者への周知」は新たに求められる対応です。
①方針の明確化と周知・啓発
まず、就活セクハラを行ってはならないという方針を明確にし、社員に周知・啓発することが必要です。具体的には、次のような対応が考えられます。
- 就業規則やハラスメント防止規程に、就活セクハラを禁止する旨を定める
- 就活セクハラを行った者を懲戒処分の対象とする旨を定め、社員に周知する
- 社内報やパンフレット、研修などで、就活セクハラの内容を伝える
あわせて、新たに求められるのが採用活動に関するルールの明確化です。面談を行う時間帯や場所、連絡手段などのルールを定め、社員に研修などで周知します。さらに、そのルールを踏まえた面談時の留意事項を、採用サイトやパンフレットなどで求職者にも知らせることが求められます。
ルールの例としては、次のようなものが考えられます。
- 面談は原則として日中に、社内または会社が指定する場所で行う
- 面談は原則として複数名で対応し、1対1の場面を避ける
- 求職者との連絡は、会社のメールアドレスや採用用のアカウントに限る
- 飲酒を伴う場で採用に関する面談を行わない
- OB・OG訪問を受ける場合は、事前に人事部門へ届け出る
社員と求職者が個人的に連絡を取り、1対1で会う場面は、就活セクハラが起こりやすいと指摘されています。自社の採用活動の実態に合わせてルールを作ることが重要です。
②相談体制の整備
次に、相談窓口をあらかじめ定め、求職者にも周知することが必要です。社内向けの窓口があるだけでは足りず、採用サイトや募集要項、説明会の資料などで、求職者が相談先を知ることができるようにしておく必要があります。
求職者は、選考を担当する人事担当者には相談しにくいと考えられます。そのため、指針では、人事担当者以外の者を相談窓口の担当者とすることも考えられるとされています。外部の機関に相談対応を委託する方法もあります。
関連記事:【ハラスメント対応】外部相談窓口として従業員からの通報に対応し、企業の初動をサポートした事例
また、相談窓口の担当者が適切に対応できるよう、次のような体制を整えておくことも求められます。
- 相談内容に応じて人事部門と連携できる仕組みを作る
- 対応マニュアルを用意し、それに沿って対応する
- 相談窓口の担当者に研修を行う
就活セクハラに当たるかどうか判断に迷うケースや、まだ問題が起きていない段階の相談にも、広く対応することが大切です。
③事後の迅速かつ適切な対応
就活セクハラの相談があった場合には、次の流れで対応します。
- 事実関係の確認:相談者と行為者の双方から話を聞き、主張が食い違う場合は第三者からも事情を聴きます。
- 被害者への配慮:事実が確認できた場合、行為者を選考や面談の担当から外す、行為者が謝罪するなど、被害者に配慮した措置を速やかに講じます。
- 行為者への措置:就業規則に基づき、懲戒処分など必要な措置を行います。
- 再発防止:方針の再周知や研修の再実施など、再発防止策を講じます。
事実関係が確認できなかった場合でも、再発防止策を講じる必要がある点に注意が必要です。
④併せて講ずべき措置
あわせて、次の措置も講じる必要があります。
- プライバシーの保護:相談者や行為者のプライバシーを守るための措置を講じ、その旨を社員と求職者に周知します。
- 不利益取扱いの禁止:就活セクハラの相談や事実確認への協力を理由に、社員を解雇するなど不利益に扱わない旨を定め、社員に周知します。
求職者が「相談したことが選考に影響するのではないか」と不安を感じないよう、プライバシーの保護について求職者にも明確に伝えることが大切です。
防止措置を怠った場合の企業のリスク
行政上のリスク
防止措置を講じていない場合、労働局による助言・指導・勧告の対象となります。勧告に従わない場合には、企業名が公表される可能性もあります。
民事上のリスク
社員が就活セクハラを行った場合、行為者本人が不法行為に基づく損害賠償責任を負うだけでなく、会社も使用者責任(民法715条)に基づいて損害賠償責任を問われる可能性があります。
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採用活動・企業の信用への影響
就活セクハラは、SNSで広がりやすい問題です。大学のキャリアセンターや学生の間で悪い評判が立てば、翌年以降の採用活動に長く影響しかねません。
人材の確保が難しくなっている地方の企業にとって、採用の場での信用を失うことは、経営上の大きな損失になり得ます。
今日から確認したい実務チェックリスト
自社の対応状況を、次の項目で確認してみてください。
- 就業規則・ハラスメント防止規程の対象に「求職者等」が含まれているか
- 就活セクハラを懲戒処分の対象として定めているか
- 面談の時間・場所・連絡手段など、採用活動のルールを定めているか
- 採用活動のルールを、採用サイトなどで求職者にも周知しているか
- 求職者が利用できる相談窓口を設け、採用サイトや募集要項で知らせているか
- 人事担当者以外の窓口や外部窓口を検討したか
- 相談を受けたときの対応マニュアルを用意しているか
- 面接官やOB・OG訪問に対応する社員に研修を行っているか
- インターン生・実習生・内定者も対象として対策を講じているか
まとめ
2026年10月1日から、就活セクハラの防止措置は、企業規模を問わず全ての事業主の義務となりました。対象は面接にとどまらず、インターンシップやOB・OG訪問、SNSでのやり取り、懇親会にまで及びます。
社内向けのセクハラ対策がすでにある企業でも、採用活動のルールを定め、相談窓口とあわせて求職者に周知するという新たな対応が必要です。
就活セクハラ対策は、単に法に触れないための備えではありません。求職者が安心して応募できる会社であることを示す取り組みでもあり、採用の場での誠実な対応は、そのまま企業の信頼につながります。
宇都宮東法律事務所では、就業規則やハラスメント防止規程の見直し、採用活動のルール作り、面接官・採用担当者向けの研修など、企業の実状に即した具体的なアドバイスを提供しております。トラブルが発生してから対処するのではなく、未然に防ぐパートナーとして、ぜひ当事務所をご活用ください。
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