退職勧奨はどこまでできる?~辞めるつもりはないとはっきりと言われたら~

1.退職勧奨とは

退職勧奨とは、使用者が、労働者に対し、自発的に退職の意思表示をするよう働きかけることをいいます。

労働者の自発的な意思表示を促すものである限り違法ではありませんが、限度を超えた退職勧奨は、違法な退職強要として不法行為となってしまいます。

2.辞めないとはっきり言われたら場合の対応

退職するかどうかは、本来であれば労働者が自由に決定することができるものです。

したがって、退職勧奨をする際には、労働者の自由意志を尊重する態様で行われるべきです。

では、「辞めるつもりはない」とはっきり言われたら、使用者は労働者の自由意志を尊重し、一切、退職勧奨をできなってしまうのでしょうか?

この点について、一般的には次のように考えられます。

まず、辞める意思がはっきりしている労働者であっても、使用者から説得を受け、自主的な判断により翻意することはあり得ます。したがって、一度労働者から辞めないとはっきり言われたとしても、常識的な範囲で説得を試みることは許されると考えられます。

しかし、度を超えた退職勧奨、たとえば、複数の人事担当者によって長時間かつ毎週のように説得を続けたり、大声を出したり机を叩くなど威圧的な態様によって説得した場合などは、違法となる可能性が高いといえます。

3.退職勧奨の限界(裁判例の紹介)

退職勧奨の限界については、被勧奨者の態度、勧奨の回数、勧奨の態様、期間などを総合的に判断して、被勧奨者の自由な意思決定が妨げられる状況であったか否かについて判断するのが裁判所の考え方です。

ここでは、退職勧奨が違法と判断された裁判例をご紹介します。

(1)下関商業高校事件

下関市の教育委員会が、市立下関商業高校の教員らに対し、教員らが退職勧奨に応じない旨を表明したにもかかわらず、約6か月の間、頻度にして12~13回、短いときで約20分、長いときでは1時間以上にわたっての退職勧奨を行ったという事案です。

本件につき、最高裁は、退職勧奨の対象となった教員らが拒否を表明してから多数回かつ長期にわたって退職勧奨を行っている点を考慮し、違法であると判断しています。

(2)兵庫県商工会連合会事件

兵庫県商工会連合会に勤務する職員が、県連の専務理事から執拗な退職勧奨を受け、これに応じなかったところ、必要性のない転籍、出向を命ぜられ、様々な経済的不利益を被るとともに、「給料月額が高すぎて、どこの商工会もとってくれるところがない。自分で行き先を探してこい。」「次の職場を探してはどうか。」「ラーメン屋でもしたらどうや。」などと言われたという事案です。

本件につき、裁判所は、「退職勧奨に応じない姿勢を明確に示しているにもかかわらず、繰り返し退職勧奨を行っており、その態様は執拗で原告に対して不当な心理的圧力を加えるもの」であり、「その手段・方法が社会通念上相当と認められる程度を超えた違法なものである」と判断しています。

4.退職勧奨が違法とならないようにするための流れ

以上を前提に、具体的な退職勧奨の流れを見ていきましょう。

(1)退職勧奨の理由を明確化する

まずは退職勧奨の理由を明確にしましょう。具体的な理由のない退職勧奨は従業員に納得してもらえないばかりか、不合理な退職勧奨として違法と評価されるおそれがあります。

(2)対象となる従業員と個別に面談を行う

退職勧奨の事実は対象となった従業員にとって、他の従業員には知られたくない事柄です。従業員に十分配慮し、個別に話し合いの機会を設け、時間帯にも注意しましょう。

(3)退職してほしい旨を伝える

従業員に対し、退職してほしい旨を伝えます。その際、退職勧奨はあくまで従業員の任意の退職を求めるものであることを前提とし、従業員に退職を迫るようなことは慎みましょう。

従業員が会話内容を録音していることも想定されるため、冷静な対応をこころがけましょう。

(4)退職勧奨に応じるかどうかの回答期限を伝える

従業員にとって、会社を退職するかどうかは簡単に決められるものではありません。その場で回答を求めることは退職強要と評価されかねないため、回答期限を設けて従業員の判断を待ちましょう。

また、退職勧奨に応じるか否かは従業員が自由に決められるものですから、執拗に退職勧奨を重ねることは控えましょう。

(5)退職の事実を書面で残す

従業員が退職に応じてくれるようであれば、退職届を提出してもらいましょう。

以上、退職勧奨について述べてきましたが、この判断は慎重に行う必要があるため、弁護士に相談することが重要です。弊所顧問サービスではこの点のアドバイスまで弁護士によるサポートが可能です。

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(解雇、残業代、ハラスメント)

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・労働局のあっせん等や団体交渉は労働審判に準じる。
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