医療機関・クリニック経営者様へ

医療機関やクリニックの経営には、診療報酬や設備投資、人材確保といった経営課題に加え、患者とのトラブル、従業員の労務問題、医療費の未払いなど、法的な課題も日常的に発生しています。医療業界の法的トラブルは一般企業とは異なり、専門的な知見が求められる場面が多くあります。
そのため、医療業に精通した顧問弁護士と契約することで、経営リスクを回避し、安定した診療体制を築くことが可能になります。

医療機関やクリニックにまつわる法的トラブルとリスク

医療機関やクリニックの経営においては、医療という性質上、法的トラブルが発生しやすい構造があります。診療行為の性質、患者との関係性、医療従事者の勤務形態、情報管理、診療報酬制度の複雑さといった要因が複雑に絡み合い、経営に大きな影響を与える法的リスクを生み出しています。特に個人経営のクリニックや中小規模の病院では、これらのリスクに対する備えが不十分であることが多く、顧問弁護士による日常的なサポートが求められます。

患者対応に関する法的トラブル

たとえば、説明義務を十分に果たさずに診療を進めたことで、後日「聞いていなかった」、「説明が不十分だった」といったクレームにつながり、損害賠償請求を受ける例があります。憲法13条に基づく自己決定権の保障の一環として、インフォームドコンセント(説明と同意)は重要な人権とされていますが、このインフォームドコンセントの不備は、医療ミスでなくとも責任を問われる可能性があり、実際に民事訴訟へと発展する事案も後を絶ちません。また、治療結果に満足しなかった患者がインターネット上で事実と異なる口コミを書き込むこともあります。GoogleレビューやSNSでの誹謗中傷は、風評被害を招き、新規患者の来院数に影響を及ぼす可能性があり、名誉毀損や営業妨害として法的措置を検討すべきでしょう(名誉毀損や侮辱などの刑事責任、または民事上の不法行為責任の対象となります。投稿の削除請求、発信者情報の開示請求、損害賠償請求、刑事告訴などの法的手段を講じることができます。)。

医療情報の取り扱いに関するトラブル

医療情報は特定個人の病歴や身体状況など極めてセンシティブな情報を含むため、個人情報保護法の中でも厳格な管理が求められます。

医療情報は、患者の氏名、住所、病歴、診療経過、検査結果、画像データなど、個人を特定できる情報を含み、個人情報保護法上の「個人情報」および「要配慮個人情報」に該当します。そのため、病院は個人情報保護法を遵守し、患者の同意なく第三者に提供することは原則としてできません。特に要配慮個人情報(病歴等)の取得・提供には、原則として事前の本人同意が必要です。

このため、患者のカルテを誤って別人に渡してしまったり、外部委託先からの情報漏洩が発覚した場合には、民事上の損害賠償責任に加えて行政指導や社会的信頼の失墜を招きます。

特に近年は、クラウドサービスや電子カルテの普及により、情報セキュリティに関するリスク管理の重要性が一層高まっています。システムベンダー(情報システムの開発や構築、運用、保守などを担う事業者)との契約書に、秘密保持条項や事故発生時の責任分担を明記しているかどうかも、実務上の重要なポイントとなります。特に、セキュリティ上の脆弱性があり、情報漏洩等の事故が発生した場合、システムベンダーに対し債務不履行責任を問うことがあります。仕様書や契約書にセキュリティ対策が明記されていなくても、社会的に必要とされる代表的な対策が講じられていなければ、責任を問うことはできますが、契約書への明記が可能な限り必要でしょう。

従業員との間で発生する労務トラブル

たとえば、長時間労働や夜勤の多さからくる残業代請求、看護師や事務職員によるパワハラ・セクハラの内部告発、問題職員に対する懲戒処分の妥当性など、対応を誤ると労働審判や訴訟に発展することがあります。医療現場では医療安全と労働条件が密接に関わるため、就業規則や服務規律の整備、社内研修の実施、職員向け相談窓口の設置など、組織的な対策が求められます。

医療費の未収問題

特に自由診療を多く扱うクリニックでは、治療費が高額であるがゆえに、事前にきちんと契約書を交わさなかった場合、患者から「こんなに高額だとは思わなかった」「説明が不十分だった」などの理由で支払いを拒否されるケースが生じることもあります。美容外科や再生医療、不妊治療の分野では、一件あたりの未収額が百万円単位になることもあります。顧問弁護士とともに契約書や同意書のテンプレートを整備し、適切な文言で説明を行っていくことが、法的トラブルを防ぐ第一歩になります。

一般企業の顧問弁護士との役割の違い

医療機関の経営者が顧問弁護士を選ぶ際、一般企業向けの弁護士と、医療業界に精通した弁護士の違いを理解しておくことは非常に重要です。医療業界特有の法制度、実務運用、トラブルの傾向を理解しているかどうかで、顧問弁護士の有用性は大きく異なります。

患者からのクレームやトラブルに対する相談、対応

患者からの苦情やトラブルは、診療方針や治療結果に対する不満、スタッフの対応への不信感など、さまざまな理由で発生します。

医療ミスとまではいえないケースでも、患者が強く不信感を抱けば、弁護士や行政に通報されるケースがあります。

医療業に精通した顧問弁護士であれば、トラブルの発生段階から院内調査、患者との面談、謝罪文の作成、示談交渉まで一貫した対応が可能です。適切な初動対応によって、訴訟リスクや医師免許への影響を未然に防ぐことができます。

また、患者対応マニュアルやクレーム処理手順の策定も重要でしょう。この点においても、弁護士により法律の視点から実効性の高い指導を受けられます。

従業員に関する労務の相談対応

医療業界では、診療時間の変則性や人員不足が常態化しており、勤務体制が特殊です。また、加えて、医療現場では医師や看護師をはじめとする多職種が協働し高度な専門性と責任を伴う業務に従事しています。そのため、労務管理上、医療機関特有の問題が生じやすい状況にあります。

このため、通常の労務管理では対応が難しい場面が多く、法的なトラブルに発展しやすいという現実があります。

未払い残業代

医療機関では長時間労働や休日出勤が常態化しやすく、労働時間の適正な管理が重要です。

病院において残業時間の計上が曖昧だと、タイムカードや電子カルテの記録が証拠として使われるケースもありますが、このような杜撰な労務管理をしていると訴訟の長期化を招くとともに、社会的な信用を失墜する事態になりかねません。トラブルを防止するため、労働時間はタイムカードやPCの使用記録等、客観的な方法で把握することが原則です。やむを得ず自己申告とする場合も、実態調査や補正措置が必要です。

賃金不払残業の解消のため、労使が協力して労働時間管理の適正化に取り組むことが重要です。

また、根本的課題として、医療機関は医療従事者の労働時間短縮や働き方改革の取組を院内に周知し、全体で改革に取り組む環境を整備することが求められます。

ハラスメント問題

多職種が同じ空間で働くため、ハラスメントや人間関係のトラブルも発生しやすい傾向があります。

セクハラ・パワハラはもちろん、医療現場では新人いじめ、教育指導と称した人格否定なども発生しやすいといえるでしょう。ハラスメント問題が院内の士気低下や退職者増加につながるため、弁護士の指導のもとでの再発防止策が必要です。

メンタルヘルス問題

医療現場においては高いストレスや過重労働により、医療従事者のメンタルヘルス不調が問題となりやすいといえるでしょう。

医療現場では、メンタルヘルス不調が業務やチームワークに重大な影響を及ぼすため、ストレスチェックや早期発見・対応が不可欠です。適切な労務管理と職場環境の改善、長時間労働の抑制、人員配置の見直し等が有効な対策となるといえます。

離職や長期休職による組織の混乱を防止するためにも、医療現場におけるメンタルヘルス対策は益々重要になってきています。

問題社員対応

遅刻常習者や、患者への無礼な対応を繰り返す職員などへの指導・懲戒は、法的手続きの順序を誤ると不当解雇と認定されかねません。医療特有のリスク(上述のハラスメントやメンタルヘルス不調が生じやすいという状況など)を考慮した対応を、顧問弁護士と連携して適切に進める必要があります。

医療費の未払い問題に対する対応

医療費の未払いは、主に外来患者や入院患者の窓口収入において発生します。

未払いの理由としては、現金を持参していない、無保険で支払いが難しい、交通事故の加害者払いを希望している、経済的困難、等が挙げられます。

自由診療の領域では、患者が診療後に高額医療費の支払いを拒否するケースも見られます。

医療費の請求に対し未払いが発生した場合、まずは患者に対して内容証明郵便等において請求し証拠化を図るとともに、必要に応じて合意書や説明書面を残しておくことが推奨されます。支払いが遅延した場合は、速やかに患者に請求し、訴訟等の法的手段をとり、早期回収を図ることが重要です。長期化することで患者の所在調査に時間を要するなど回収が困難になるケースもあります。

また増加傾向にある外国人患者に対しては適切な事前同意書や契約書などの整備が求められます。

医療業に特化した顧問弁護士であれば、患者属性に応じた回収手段(少額訴訟、支払督促、通常訴訟など)を提案できます。

自由診療かつ高額のため支払遅延が多発する傾向にある診療科(美容皮膚科・歯科・不妊治療など)へのリスク対策も支援可能です。

医療業の経営者で、顧問弁護士をお探しなら宇都宮東法律事務所まで

宇都宮東法律事務所では、医療業界に精通した顧問弁護士が、地域の医療機関やクリニックの経営者に対し、法的サポートを提供しています。

顧問契約を結ぶことで、定例相談だけでなく、緊急時の初動対応や訴訟代理、就業規則の整備、ハラスメント研修の実施まで、包括的に対応することが可能です。

もし、お困りごとがございましたら、まずは弊所までご相談ください。

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