コロナ禍における労務対応-在宅勤務とフレックスタイム制
1 コロナ禍における労務対応
コロナ禍を機に企業における従業員の働き方は著しく変化しました。テレワーク、時差出勤、フレックスタイム制度など、今後コロナ禍が収束したとしても従業員の生産性向上や人材の定着を図るうえでは、従業員の自主性を尊重する制度の活用が有用です。
今回は、あらためて注目を集めているフレックスタイム制度のメリット・デメリット、必要な手続き等についてご紹介します。
2 フレックスタイム制とは
フレックスタイム制度とは、一定の清算期間の中で、あらかじめ決められた総労働時間の労働をすることを条件に、労働者が始業・終業時刻、労働時間を決めることができる制度です。
3 フレックスタイム制度のメリット・デメリット
メリット
労働者が自主的に始業・終業時刻を決めることができるため、通退勤のラッシュを避けることができます。
また、労働者のライフスタイルに合わせた働き方を導入することで、生産性の向上や従業員満足度の向上にもつながります。
デメリット
労働者ごとに労働時間が異なるため、労務管理の負担が増えることとなります。
また、コアタイムを定めない場合、従業員同士が顔を合わせる機会が減り、社内コミュニケーションの低下を招くおそれがあります。
これらのデメリットを解消するためには、自社の規模にあわせた勤怠管理ツールを導入したり、適切なコアタイムを設定することが有効となるでしょう。
4 コアタイムとフレキシブルタイム
フレックスタイム制度では通常、1日の労働時間の中で「コアタイム」「フレキシブルタイム」という時間帯を設けて運用されます。
コアタイム
「コアタイム」とは、労働者が必ず労働しなければいけない時間帯のことです。一般的には午前10時から午後3時までをコアタイムと定めている企業が多いようです。コアタイムを設けないことも可能で、コアタイムを設けないフレックスタイム制度は「スーパーフレックス」と呼ばれています。
フレキシブルタイム
「フレキシブルタイム」とは、コアタイム以外の時間帯をいいます。労働者は、フレキシブルタイム内であれば、いつでも出勤・退勤することができます。フレキシブルタイムを設けないこともできますが、就業・始業時刻の決定を完全に労働者の自由に委ねてしまうと、労務管理の負担増加や、深夜の割増賃金の支払い等による人件費の増加が懸念されます。
5 清算期間
「清算期間」とは、あらかじめ定めた総労働時間と、労働者が実際に労働した時間とを清算するための期間です。2019年4月1日に施行された「働き方改革関連法案」により、清算期間の上限が1か月から3か月に延長されました。
賃金の清算
フレックスタイム制度では、清算期間における総労働時間と実際の労働時間との過不⾜に応じて賃⾦の清算を⾏う必要があります。
実労働時間が総労働時間を上回る場合、超過した時間分の賃金の清算が必要となります。
実労働時間が総労働時間を下回る場合、①不足時間分の賃金を控除して支払いをするか、②不足時間を繰り越し、次の清算期間の総労働時間に合算するか、いずれかの方法をとることとなります。
時間外労働に関する取扱い
フレックスタイム制度では、労働者が⽇々の労働時間を決定することとなります。そのため、1⽇8時間・週40時間という法定労働時間を超えて労働しても、 ただちに時間外労働とはなりません。
実労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が時間外労働となります。法定労働時間の総枠の求め方は、
(清算期間の暦日数÷7)×1週間の法定労働時間(40時間)
となります。
これを計算すると、1か月の法定労働時間の総枠は以下の表のとおりとなります。
清算期間の暦日数 | 法定労働時間の総枠 |
31日 | 177.1時間 |
30日 | 171.4時間 |
29日 | 165.7時間 |
28日 | 160.0時間 |
6 導入手続き
フレックスタイム制度を導入するためには、以下の手続きが必要となります。
就業規則等への規定
フレックスタイム制度を導⼊するためには、就業規則等により、 始業・終業時刻を労働者の決定に委ねることを定める必要があります。
労使協定で所定の事項を定めること
労使協定で以下の事項を定める必要があります。
①対象となる労働者の範囲
②清算期間
③清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
④標準となる一日の労働時間
⑤コアタイム(※任意)
⑥フレキシブルタイム(※任意)
なお、清算期間が1か月を超える場合は、所轄の労働基準監督署長に労使協定届を提出する必要があります。
7 在宅勤務とフレックスタイム制度の併用
フレックスタイム制度を導入しない場合、在宅勤務であっても会社の定める始業時間に業務を始め、終業時間に業務を終えなければなりません。
しかし、コロナ禍では、在宅学習となってしまった子供の面倒を見たり、同じく在宅勤務となってしまった夫婦間で家事を分担したりと、家庭との両立を図るうえで、会社の定めた業務時間に働くことが難しい労働者もいるかと思います。
このような場合、在宅勤務とフレックスタイム制度を併用し、勤務態様と勤務時間の決定を労働者に大幅に委ねることで、家庭と仕事を両立させ、ワークライフバランスを実現することができます。
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