試用期間の解雇はどこまで認められる?企業が知るべきポイントと注意点を解説

大多数の企業では、正規従業員の採用については、入社後一定期間を「試用」ないし「見習」 期間とし、この間に当該労働者の人物・能力を評価して本採用(正社員)とするか否かを決定する制度をとっています。

これは、労働者が提供する労働力は実際に働いてみなければ本当の評価が困難であるということから、経営の必要に基づいて創設されたものです。この制度は就業規則上定められるのが一般的で、期間は3ヶ月が一番多く、それを中心に 1 ヶ月から 6 ヶ月にわたります。

試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれることから、その適性を判断するのに必要な合理的な期間を越えた長期の試用期間は、公序良俗に反し、その限りにおいて無効とされる可能性があります。

試用期間は、従業員の適性や勤務態度を見極めるための重要な期間ですが、「試用期間だから簡単に解雇できる」 わけではありません。

企業が試用期間の解雇を行う際には、合理的な理由と社会通念上の相当性が求められ、不当解雇と判断されるリスクも存在します。実際に裁判では、指導不足や解雇理由の曖昧さを理由に企業側が敗訴する事例も少なくありません。

本コラムでは、試用期間における解雇の適法性や、解雇を行う際の注意点について詳しく解説します。

労働契約と解雇

労働契約は、使用者(企業)と労働者が対等に結ぶ契約ですが、実際には企業の方が強い立場にあることが多く、労働者は職を失うリスクを容易には負えません。そのため、労働契約法16条では、解雇が有効とされるために「客観的に合理的な理由」が必要であり、「社会通念上相当」とみなされる条件を満たさなければならないと明文化しています。この趣旨は、企業の一方的な解雇によって労働者の生活が脅かされるのを防止する点にあります。

企業が解雇を検討する場合、どのような理由で解雇を行うのか、またその理由が法律や判例が求めるレベルの相当性を備えているかを十分に検討する必要があります。例えば「業績不振だから」、「上司と折り合いが悪いから」といった理由だけでは不十分であり、合理的理由と社会通念上の相当性(他の代替手段等ではだめなのか)を客観的に立証できるかがポイントになります。もし立証に失敗すれば、解雇は無効となり、不当解雇として争われるリスクがあるでしょう。

試用期間における解雇と一般的な解雇の違い

試用期間中の労働契約は「解約権留保付労働契約」と解されるのが一般的です。

これは、企業が本採用に至るまでの間に労働者としての適格性を判断できるよう、解雇や本採用拒否を行う可能性を留保している契約形態ということです。ただし、解約権が留保されているからといって無条件で解雇が認められるわけではありません。通常の解雇と同じく、解雇のためには合理的理由が必要であり、社会通念上相当と認められなければならないという大原則が適用されます。採用当初知ることができなかったような事実が試用期間中に 判明し、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することに客観的合理性が 認められるような場合等に、解約権行使が相当であるとされます。

しかしながら、試用期間中は採用面接や書類選考などでは把握しきれない勤務態度や適性を確認する大切な期間であるため、通常の解雇よりは企業の判断が広く認められる傾向があります。

就業規則や雇用契約書などには「試用期間中、勤務態度や能力などを踏まえて適性がないと判断した場合は解雇できる」、「本採用は、試用期間における業務遂行能力などを総合的に考慮して決定する」といった旨の条項が置かれることも多いです。こうした条項は有効ですが、具体的な解雇理由の妥当性や、解雇に至るまでの手続きが適切であるかどうかが、裁判所での判断材料となる点に注意が必要です。

試用期間の解雇が認められる場合

試用期間において解雇が認められやすいのは、採用の前提を大きく覆す事由があると判断される場合、業務に支障をきたす程度の重要な問題があると判断される場合等です。ただし、どの事由であっても「客観的・合理的理由」と「社会通念上の相当性」が必要であるという原則は変わりません。もし仮になんらかの問題があったとしても、さして重大な問題ではなく、業務に支障のないものであれば解雇は難しいと考えられます。ここからは、実際の運用上よく問題となるパターンを中心に詳しく説明します。

病気やケガ

試用期間中に病気やケガを負い、復職できる見込みが立たず長期にわたり就労が困難と判断される場合、解雇が認められるケースがあります。企業には労働者の就業を可能な限り支援する義務があり、病気やケガの治療と仕事を両立できるよう配慮をすることが求められますが、やむを得ない状況で復職が現実的に困難と認められる場合には解雇せざるを得ないこともあります。例えば、当初から本採用を前提とした技術職であったにもかかわらず、重度の障害を負って継続的な業務が不可能となった場合などが典型例です。ただし、労働者が療養後に復帰できる可能性があるにもかかわらず、一方的に解雇を通知してしまうと、不当解雇とされるおそれが高まります。

経歴詐称

履歴書や職務経歴書、面接での申告内容に虚偽があった場合、いわゆる「経歴詐称」を理由として解雇が認められる可能性があります。経歴詐称の具体例としては、卒業していない大学を卒業したと偽る学歴詐称、在籍したことのない企業に勤めたとする職歴詐称、必要な資格を所持していないにもかかわらず取得済みと申告する資格詐称、さらには過去の犯罪歴を隠蔽するといったケースが挙げられます。特に職務の遂行に密接に関連する資格やスキルに関して重大な詐称がある場合は、解雇が有効と認められやすいです。企業としては、採用時に十分に確認しきれない部分があるため、試用期間中に実態を把握した段階で解雇を検討することになるでしょう。ただし、経歴詐称が業務内容に直接影響しない程度の些細なものである場合や、詐称の程度が軽微なものだと判断されると、解雇の正当性が疑われることもあります。企業側としては、詐称内容の重要性と業務への影響度を総合的に考慮しなければなりません。

能力不足

企業が新規採用した従業員に期待していた業務遂行能力が著しく欠けている場合、試用期間中の解雇が認められやすいとされています。

例えば、中途採用者として即戦力を期待していたにもかかわらず、基本的な業務すらこなせないほど技能や知識が不足している場合などが典型です。ただし「どの水準を能力不足とみなすか」という基準は企業側の一存だけでは決まらず、裁判では、採用時にどのような条件で募集し、面接や求人票で要求したスキルのレベルと実際の業務内容との間に大きな乖離があるか、さらには改善に向けた指導を行ったかなどの要素が総合的に審理されます。企業には、必要な指導や教育を実施したうえで、それでも能力的に大きな問題があることを立証する責任があるといえます。試用期間中に具体的な評価基準や到達目標を設定し、複数回フィードバックを行っても改善が見られないような場合であれば、能力不足による解雇が認められる可能性は高くなるでしょう。

協調性の欠如

企業は組織で業務を行うため、社員同士が協調して働く能力は重要です。

試用期間中に著しく協調性を欠き、周囲とのコミュニケーションが成り立たなかったり、注意や指示に対して反抗的な態度をとり続けたりする場合は、試用期間の解雇理由となりえます。たとえば、注意や指導を繰り返しても改善の兆しが見られず、業務全体に支障が出るほど勤務態度が悪い場合は、企業としても本採用の判断を見送らざるを得ないでしょう。とりわけ、頻繁な遅刻や無断欠勤などの就労姿勢に問題があるケースや、上司や同僚に対する尊重を欠いた言動を繰り返すケースでは、協調性欠如の程度が強いとみなされることがありますが、後日争われた場合に、その立証が困難となることが予想されるため、勤怠記録や、その問題となる行為の内容を具体的に記録した書面等、客観的物証の存在は不可欠と思われます。企業としては慎重に記録を残しておくことが必要でしょう。

知っておくべき試用期間の解雇が認められにくいパターン

試用期間中の解雇は通常の解雇と比べて企業の判断が広く認められる一方で、無条件に認められるわけではなく、次に示すようなケースでは解雇が認められにくいと考えられます。ここでは、トラブル防止の観点から押さえておきたい注意点をより詳細に解説します。

新卒採用者や未経験者を能力不足で解雇する

新卒採用者や未経験者の場合は、これまで実務経験がないのが当たり前であり、企業が入社後に適切な研修や教育を行いながら、一人前に育てていくことが期待されています。そのため、仕事に慣れていない段階で「期待した能力がなかった」として解雇を行うのは、裁判所から「企業が十分に教育する機会を与えていない」、「研修・指導不足である」と判断される可能性があります。実際に、研修プログラムの存在や研修を経ての段階的な成長見込みの提示などを企業側がしっかり行っていたかどうかも重要でしょう。

指導不足

能力不足を理由として解雇を検討する際に、企業が適切な指導を行ったかどうかは非常に重要なポイントです。試用期間中は、本採用後と比較しても指導やフィードバックを集中的に行うタイミングといえます。企業側が「業務の進め方」、「必要な知識や技能」、「問題が生じた際の対応策」などを具体的に指示し、労働者がそれを実践できるようフォローする責任を負っているともいえます。たとえ採用時にある程度の経験やスキルを期待していた中途採用者であっても、自社特有の業務フローやルールが存在するならば、会社独自のやり方に慣れるためのサポートはすべきでしょう。指導不足が裁判などで指摘された場合、能力不足を理由とする解雇は無効と判断される可能性があります。

プロセスを無視して結果だけで判断する

試用期間の解雇を検討するにあたって、単に「数値目標を達成できなかった」、「売上が伸びなかった」などの結果だけを見て判断すると、裁判所や労働審判において不当解雇とされるリスクがあります。とりわけ、期待が大きい中途採用者や、営業職など具体的なノルマのある職種の場合、試用期間中の目標未達を理由として解雇を検討する企業は少なくありません。しかし、従業員が目標を達成するための努力や取り組みを行っていたか、企業側は適切な支援策を講じていたか、といったプロセス面の事情も慎重に考慮されるのが一般的です。特に試用期間は学習や慣熟期間としての要素が強いため、短期的な成果だけで即解雇に踏み切ると、後に正当性を主張しづらくなるおそれがあります。

試用期間での解雇に当たって注意すべきこと

試用期間を設定している企業でも、解雇には注意が必要です。手続きの違反や解雇理由の不備によっては、後に解雇が無効と判断される場合があります。企業としては、以下のような注意点を踏まえ、適切に対応しなければなりません。

留意点

  • 解雇予告の必要性

労働基準法第20条では、労働者を解雇する場合には30日前に予告しなければならないと定められています。試用期間中であっても、入社から14日が経過している場合は同様のルールが適用されるため、解雇を考えている場合は早めに検討し、適切な手続きに従わなければなりません。具体的には、14日以内であれば即時解雇が可能(労働基準法21条但書)ですが、14日を過ぎると解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となる点に留意しましょう。解雇予告手当の支払いを行わずに即日解雇をしてしまうと、労働基準法違反となり、労働者から訴えられるリスクが高まるため、必ず適切な手続きを踏むことが重要です。

  • 本採用拒否事由の明示

手続き上の留意点として、労働者とのトラブルを避けるためには、『試用期間』の意味や『本採用拒否』事由の明示を行うことを心掛けるべきでしょう。就業規則に記載することや雇用契約書に記載しておきましょう。

試用期間中の解雇と本採用拒否の違い

試用期間中の解雇は、大きく「試用期間の途中で解雇する場合」と「試用期間が終了すると同時に本採用を拒否する場合」の2つに分かれます。

試用期間の途中で雇用契約を終了させる場合はもちろんのこと、試用期間が満了になったからという理由で本採用をせず雇用契約を終了させる場合でも、 雇用契約を開始した以上は、仮に、それが試用期間という名前の期間であっても、雇用契約をしたことには変わりがありません。

このため、使用者側の一方的な理由で雇用契約を終了させると、それは解雇したことになってしまいます。

「試用期間が満了したから本採用しません」というのは立派な解雇であるという認識をもつ必要があります。

すなわち、いずれの場合も法的には解雇とみなされますので、注意が必要です。

まとめ

試用期間における解雇は通常より企業の裁量が大きいとはいえ、法的には厳格な条件を満たさなければならず、安易な解雇は不当解雇リスクを伴います。解雇無効の判断が下されれば、従業員の復職や未払い賃金の支払いといった大きな負担を企業が負う可能性があります。試用期間であっても、解雇に踏み切る前には「解雇理由の合理性」、「社会通念上の相当性」、「解雇予告などの法的手続き」がすべて十分に満たされているかを確認する必要があります。

当事務所では、企業法務に精通した弁護士が、試用期間中の解雇理由の妥当性や手続きの正確性についてアドバイスし、トラブルを未然に防ぐためのサポートを提供しております。

解雇を検討する場合や、従業員とのトラブルになりそうな状況に不安を抱えている場合は、ぜひ早めにご相談ください。企業側の正当な利益を守りつつ、法的リスクの軽減を図るための最適な方法をご提案いたします。

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