倒産を決断するとき、社長が知っておくべき「5つ」のこと
1 初めに
倒産を決断する前の段階で会社の社長様がご相談にいらっしゃる際、お話を聞くと、数多くの疑問をかかえながらも、法律上の正しい知識を有していないことで不必要に不安に駆られ、精神的に追い詰められていることが多いと感じます。長年一人で問題を抱え込まれ、家族や従業員の前では決して見せないであろう涙を目に浮かべ、お話を続ける社長様のお姿も拝見してきました。
正しい知識があれば、取るべき選択肢も明確になり、何より精神の不安を和らげることができるはずです。
そのような思いから、この頁では、倒産を決断する際、社長が知っておくべきことを箇条書きにしています。ここに書かれていることは法律上、本当に基本的な事柄にすぎませんが、悩まれている社長様にお役に立てば幸いです。
そして、何より、法律の専門家である弁護士に相談してみようと思うきっかけになれば幸いです。
当事務所では個人の申立て含め、破産再生の裁判所への申立実績が多数ございます。この実績を活かし、弁護士及びスタッフ全員で法的にサポートさせていただきます。
問題を一人で抱え込まず、ぜひ当事務所へご相談にご来所ください。
2 倒産を決断する時、社長が知っておくべき
「5つ」のこと
第1 財産はどうなりますか?
1 家はどうなりますか?
社長個人が会社の債務を保証しておらず、個人の家に抵当権を設定していない、そして個人的に借入をしていないのであれば、社長個人の名義になっている家が失われることもありません。
ですが、社長個人が会社の負債を連帯保証している場合や個人的に消費者金融等から借入をしている場合には社長に対し請求がくることになります。
この時に、個人再生という方法があります。この個人再生により住宅ローン条項付きの申立をすると、社長個人の負債を5分の1~10分の1程度にまで圧縮できる可能性が高く、住宅ローン支払い中の家をそのまま残すことができる可能性があります。
個人再生という手段をとる場合、裁判所に申し立てを行いますが、仮に認可されたとしても、3年の間に圧縮された負債を支払い切る必要があります(場合によっては5年まで伸長可)。その前提として住宅ローンを除いた負債総額が5,000万円以下であることが要件になりますので注意が必要です。
個人再生が難しい場合には自己破産を検討します。
自己破産すると基本的に自宅不動産は換価対象となるため、失うことになります。必ず競売にかかるわけではありませんので、債権者との交渉により任意売却という方法をとることも可能です。この場合に親族に家を売却し、自己破産後は賃借して賃料を支払うことにより、家に住み続ける方法もあります。
なお、そもそも家が家族名義の場合には家がなくなることはありません。
破産によって失われる財産はあくまで破産者本人の財産のみだからです。
2 車はどうなりますか?
裁判上の破産申し立てをした場合、会社名義で購入した車は会社の破産手続を通じて現金化され、債権者への配当に充てられるのが通常ですので、手元に残りません。
破産手続開始後に破産管財人から親族等が買い取ることで、残せる可能性はありますが、あくまでも破産管財人の判断になりますので絶対とはいえません。
また会社がリース契約により車を調達している場合は、リース会社が車を回収するため車を手元に残すことはできません。
社長が個人名義で所有している車の場合にはローンが残っているか(所有権留保付きの場合には引き上げられ手元に残らないのが通常です)、ローンがない場合に現在の価値が高額でなければ手元に残すことが可能です。
3 家族の財産はどうなりますか?
ご家族が、連帯保証人になるなどしていなければ支払い義務が発生することはありません(物上保証人になっていないかも注意が必要です)。この場合には、ご家族の財産はそのまま手元に残ることになります。
万一、ご家族に対して取り立てがあった場合、弁護士から業者に対して警告文書を送付する等し、取り立てを止めるよう求めていきます。仮に執拗な取り立ての際に家族として連帯保証を約束する文書に署名を求められても拒否してください。
4 店舗や倉庫はどうなりますか?
自社の店舗や倉庫等が賃貸の場合、賃貸借契約に定められた原状回復義務を履行すること)をする必要があります。この場合、明け渡しをしないまま裁判所に破産申し立てを行う場合には、予納金が高額になることが多いので弊所では原則として明渡しをしてから申立てを行うことを検討します。
店舗や倉庫が賃貸ではなく、会社名義の場合には、抵当権が設定されていれば実行されることになり、抵当権が設定されていない場合には破産申し立て後に手続きを通して換価対象財産になりますので手元には残りません。
財産を残せるかどうかについては、専門的な話ですので一度弁護士に相談されることをお勧めします。
第2 従業員はどうなりますか?
従業員は解雇する必要があります。
解雇する場合には、30日前までに解雇事由を記載した解雇通知を従業員全員に出す必要があります。
この時、未払いの賃金や退職金があることが多いです。
未払い賃金がある場合には、独立行政法人労働者健康福祉機構の「未払賃金立替払制度」を利用することができます。
未払賃金立替払制度とは支払わなければならない給料を会社に代わって、労働者健康福祉機構が支払う制度です。この制度を利用するためには、原則として会社が裁判所を通して破産手続きを行っていなければなりません。
適用される賃金は、退職した日の6カ月前から、未払いとなっている毎月の給料や退職金です。ボーナス、社宅費、年末調整の還付金、解雇一時金などは含まれません。税金や社会保険料などが控除される前の金額で、いわゆる額面の給与額が立替払いとなります。
また立替払いの金額には、上限が定められており、未払い賃金の総額の80%となっています。
適用される従業員は①倒産した会社が労災保険に加入していて、そこに1年以上雇用されていた人②会社の倒産で退職して、毎月の給料や退職金が未払いの人。(ただし、未払いの額が2万円未満のときは、立替払いはありません。)③会社が倒産した日の6カ月前から、2年間の間にその会社を退職した人、となります。
なお、この制度は取締役等の役員には適用されません。
第3 債権者からの取り立てはどうなりますか?
一般的に、弁護士に依頼いただくと、受任通知という書面を各債権者宛に送付することになります。受任通知には、当事務所の弁護士が代理人となり今後倒産手続きを進めていくこととともに、債務者に直接連絡し取り立てをしないよう求める内容も記載します。
なお、一般的な貸金業者や債権回収業者は、上記の受任通知を受け取った場合には、法律上、債務者に対する直接の連絡や取り立てができなくなっています(貸金業法21条、債権管理回収業に関する特別措置法18条)。このため、通常は、受任通知を受け取った場合には、債務者に対する直接の連絡や取り立ては止まることがほとんどです。
しかし、個人の債権者やいわゆる闇金の場合には、受任通知を無視して債務者に直接連絡することもあります。たとえ債権者であっても、債務者に脅迫・恐喝する、在庫商品を勝手に持っていくなどの自力救済行為は刑法上の脅迫罪、恐喝罪、窃盗罪等の犯罪を構成します。
このような場合には、警察に刑事告訴するという方法で相手を牽制することを検討します。
負債を支払えなくなって債権者によって追い詰められている場合、冷静な判断が難しい場合があります。この場合でも弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人として窓口になることとなり精神的な負担を減らすことができます。
お早めに弁護士までご相談下さい。
第4 取引先はどうなりますか?
裁判上の破産手続きの申し立てする場合、信用不安により事実上取引先との関係が悪化する可能性は否定できません。
また、法律上の関係でいえば、取引先との契約関係は様々な形態がありますので一概には言えませんが、仮に法人が取引先より物を仕入れて転売することによって利益を得るという事業を行っていた場合、売買契約という契約が締結されています。
この場合に法人は取引先より物を受領していましたが、売買代金が未払いであるとすると、取引先の売買代金請求権は破産債権となり、破産手続きの中で処理されることとなります。
仮に、法人が物を受領する前で、かつ、売買代金の支払い前の場合には、双方未履行双務契約として、破産手続開始後、破産管財人が当該売買契約を履行するか解除するかを選択することになります(破産法53条1項)。破産管財人が物を転売することで破産財団の増殖が見込まれる場合には、履行を選択することもあります。
破産申し立て後に取引先の連鎖倒産が生じることもあります。取引先に与える影響を最小限にとどめるためには破産を申し立てるタイミングを正確に検討していくことが必要です。
第5 破産とは、どのような手続きになりますか?
1 代表者だけ破産することはできますか?
法人は破産させず代表者だけ破産したいという相談を受けることがあります。結論として、これは難しいでしょう。
個人の財産と法人の財産との混同が生じやすく管財人による調査の必要性が高いため、代表者のみの破産申立ては受け付けないという運用をしている裁判所が多いでしょう。
2 債権者集会とは何ですか?
管財事件として破産手続きを申し立てた場合、管財人は財産を調査し、換価、配当するとい手続に入ります。定期的に(約3ヶ月に1回)裁判官、管財人、債権者、破産申立人が集まる機会が設けられ、これを債権者集会といいます。債権権者集会は財産が全て債権者に配当されるまで続きます。
債権者集会では、破産申立人は出席しなければならず、第1回の債権者集会は、破産申立人と債権者が破産申立後、直接会う最初の機会ですがほとんどの債権者は集会に来ませんが、債権者から口頭で非難され紛糾する場面もあります。
債権者集会は、配当が終了するまで続きますが、財産がなく、破産申立人の破産原因の調査をして管財人が大きな問題がないと判断すれば2回ほどで終了することもあります。
配当する財産がある場合には、より多く債権者集会が設けられます。例えば、管財人が、財産を確保するために訴訟をする場合には訴訟が半年~1年と長期化するケースもあります。
3 破産管財人からの追及が怖いのですが?
管財人の業務は、財産を調査し、換価、配当することです。
調査の結果、不自然な財産の流れや不正が発覚した場合には、管財人は、利益を享受した者に対して、不当利得返還請求等をすることになります。また、支払不能の状態にあったにも関わらず、特定の債権者にだけ先に弁済した場合(偏頗弁済といいます)、管財人はこれらの債権者に対してもその財産を会社に返還するよう請求します。
仮にそのような行為があった場合でも、事実を詳細に説明報告することが重要になります。あきらめず、誠実に対応していきましょう。