薬機法とは?広告・景品表示に関わる規制を解説
化粧品、健康食品、サプリメント、美容機器、医療機器などを取り扱う事業者にとって、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」を理解することは非常に重要で、特に、商品の魅力を伝える広告表現や、事業に必要な許認可については、薬機法の規制を正しく理解し、遵守することが求められます。
しかし、薬機法は複雑で、解釈が難しい部分も少なくありません。「どこまでが許される表現なのか」、「この事業に許認可は必要なのか」、「違反した場合のリスクは?」といった疑問や不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、薬機法の基本的な内容から、広告規制、違反した場合のリスク、そして違反しないための対策等を解説します。
1.薬機法とは
薬機法とは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」という正式名称を持つ法律の略称です。この法律の主な目的は、私たちが日常的に利用する医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、そして再生医療等製品といった幅広い製品における品質、有効性、安全性を適切に確保することにあります。
そのために、これらの製品が開発、製造、販売され、そして広告が出稿されるまでの全ての段階において様々なルールを定めています。
これにより、製品の使用によって健康上の問題が起きたり、被害が広がることを未然に防ぐことを目指しています。加えて、特定の危険ドラッグなどの指定薬物に対する規制や、より良い医薬品などを生み出すための研究開発を促進することも、この法律の重要な役割に含まれています。
薬機法によって規制されている商品
薬機法の第2条では、この法律で扱われる中心的な製品である「医薬品」、「医薬部外品」、「医療機器」、「化粧品」、「再生医療等製品」等が、それぞれ何を指すのかを具体的に定める非常に重要な条文です。ここでは、薬機法第2条に実際にどのように書かれているのか、その一部を抜粋して具体例も交えて解説していきます。
医薬品
日本薬局方に収められている物、あるいは人や動物の病気の診断・治療・予防や身体の構造・機能に影響を及ぼすことを目的とした物(ただし医療機器などを除く)と定めています。
【具体例】
・処方薬:抗生物質、降圧剤、糖尿病治療薬
・市販薬(OTC医薬品):風邪薬、解熱鎮痛薬、胃腸薬、目薬
・日本薬局方に収載されている物質:ワセリン、消毒用エタノールなど
医薬部外品
人体に対する作用が緩やかで、吐き気の防止、口臭や体臭の防止、あせもの防止、脱毛の防止・育毛・除毛、または衛生上の害虫の駆除など、特定の目的のために使用されるもので、厚生労働大臣により指定されたものを指します。
【具体例】
・薬用石鹸、薬用歯磨き粉、薬用シャンプー、薬用クリーム(「肌荒れ防止」など特定の効果を謳うもの)
・育毛剤、染毛剤
・制汗スプレー、デオドラント製品
・入浴剤(「疲労回復」「肩こり」などを謳うもの)
・殺虫剤、虫除けスプレー(直接人体に使用するもの)
医療機器
人や動物の病気の診断・治療・予防、もしくは身体の構造や機能に影響を与えることを目的とした機械器具、歯科材料、医療用品、それらに関連するプログラムなどで、政令によって具体的に定められたものを指します。
【具体例】
・診断用機器:体温計、血圧計、聴診器、X線撮影装置、MRI装置、心電計、内視鏡
・治療用機器:注射針、メス、ペースメーカー、人工関節、レーザー治療器、透析装置
・その他:コンタクトレンズ、補聴器、家庭用マッサージ器、ばんそうこう、サポーター、歯科用セメント
・プログラム医療機器:診断支援AI、治療計画支援システム
化粧品
以下のいずれかの目的のために、身体に塗擦・散布その他これらに類似する方法で使用される物で、人体に対する作用が緩和なものをいいます(ただし、医薬品としての使用目的を併せもつ物、および医薬部外品を除きます。薬機法2条3項)。
・人の身体を清潔にする
・人を美化する
・人の魅力を増す
・人の容貌を変える
・人の皮膚または毛髪を健やかに保つ
【具体例】
・メイクアップ化粧品:ファンデーション、口紅、アイシャドウ、マスカラ
・基礎化粧品:化粧水、乳液、美容液、クリーム(一般的な保湿目的のもの)
・ヘアケア製品:(薬用でない)シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアワックス
・ボディケア製品:(薬用でない)石鹸、ボディソープ、ボディローション
・香水、オーデコロン
再生医療等製品
・人・動物の身体の構造・機能の再建・修復・形成、または疾病の治療・予防を使用目的とする物のうち、人または動物の細胞に培養その他の加工を施したもの
・人・動物の疾病の治療を使用目的とする物のうち、人または動物の細胞に導入され、その体内で発言する遺伝子を含有させたもの(医薬部外品・化粧品を除く)
であって、薬機法施行令別表第二に定められるものをいいます(薬機法2条9項、薬機法施行令1条の2)。
【具体例】
・培養表皮:重度のやけど治療など
・家培養軟骨:関節の軟骨欠損治療など
・遺伝子治療用製品:特定の遺伝子異常による疾患の治療薬
・特定の細胞を用いた治療製品:心不全、神経疾患などの治療を目指すもの
薬機法で定められる主なルール
各種事業の許可制・登録制
薬機法では、医薬品や医療機器などを取り扱う事業について、その内容やリスクの高さに応じて、主に「許可制」と「登録制」という二つの異なる規制の枠組みを設けています。これらは事業を開始するための要件や手続きの厳格さが異なります。
許可制
許可制は、薬機法に基づく規制の中で最も厳格な要件が求められる制度です。事業を開始する前に、国や都道府県に対して申請を行い、事業所の構造設備、人的要件、品質管理・安全管理・製造管理の体制などが、法律で定められた基準に適合しているか厳しい審査を受け、承認を得る必要があります。
一般的に、取り扱う製品のリスクが高い、または人の健康への影響が大きいと考えられる事業が対象となります。
【許可が必要な主な事業】
・製造販売業 :医薬品、医薬部外品、化粧品、クラスII以上の医療機器、再生医療等製品の製造販売
・製造業:医薬品、医薬部外品、化粧品、再生医療等製品の製造
・販売・修理・その他:薬局開設、医薬品販売、高度管理医療機器等の販売・貸与、医療機器修理
登録制
登録制は、許可制に比べると要件は緩和されますが、事業を行うためには事前に国(厚生労働大臣)に申請し、一定の基準を満たしていることの確認を受けた上で登録簿に登録される必要がある制度です。
【登録が必要な主な事業】
医療機器および体外診断用医薬品の製造所としての登録(登録製造所制度)
医薬品等の広告規制
薬機法では、消費者の安全確保や適正な選択を保護するため、医薬品等の広告に対して厳しい規制を設けています。主な規制は以下の通りです。
誇大広告等の禁止(薬機法第66条)
名称、製造方法、効能、効果、性能に関して、明示的か暗示的かを問わず、虚偽または誇大な記事を広告し、記述し、または流布してはなりません。
特定疾病用医薬品等の広告の制限(同法第67条)
がん、肉腫、白血病など特定の疾病(政令指定)に使用される医薬品や再生医療等製品については、原則として医薬関係者以外の一般人を対象とする広告は禁止されています。
未承認医薬品等の広告の禁止(同法第68条)
日本国内でまだ承認・認証を受けていない医薬品、医療機器、再生医療等製品について、その名称、製造方法、効能、効果、性能に関する広告は一切禁止されています。
医薬品の販売・表示に関する規制
医薬品の安全を守るため、薬機法では特に以下の3つのルールを定めています。
(1)処方箋なしでの「処方箋医薬品」の販売禁止
医師の処方箋が必要な薬は、原則として処方箋がない人への販売・譲渡は禁止です。
(2)容器やラベルの正確な表示
法律で決められた情報(薬の名前、使い方、注意など)は、正確かつ分かりやすく表示しなければなりません。また、医薬品の容器や被包には、虚偽や誤解を招く可能性がある事項、未承認の効能・効果・性能、保健衛生上危険がある用法・用量・使用期限を記載してはいけません。
(3)規制違反の医薬品は販売禁止
品質が悪い、表示が間違っている、国の承認がないなど、薬機法の規制に違反した医薬品の販売や、販売目的での保管などは一切禁止です。
薬機法とその他の法律との関係
商品の広告や表示に関しては、薬機法だけでなく、他の法律も関わってきます。特に注意すべきは「景品表示法」と「健康増進法」です。
景品表示法との関係
不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)は、商品やサービスの品質、価格などについて、実際よりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認される表示(不当表示)を禁止しています。
具体的には、以下の通りです。
優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)
事業者が自己の供給する商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に 対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良で あると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択 を阻害するおそれがあると認められる表示
有利誤認表示(景品表示法第5条第2号)
事業者が自己の供給する商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は 当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るもの よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧 客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示
を禁止しています。
薬機法上の広告規制をクリアしていても、景品表示法の観点から問題となるケースがあります。
健康増進法との関係
健康増進法は、食品として販売される物に関して、健康の保持増進の効果などについて、著しく事実に相違する表示や、著しく人を誤認させるような表示(虚偽・誇大表示)を禁止しています。
具体的には、健康増進法第65条第1項は、以下のような健康保持増進効果等についての虚偽誇大表示を禁止しています。
事実に相違する表示
「事実に相違する」とは、広告等に表示されている健康保持増進効果等と実際の健康保持増進効果等が異なることを指す
人を誤認させる表示
「人を誤認させる」とは、食品等の広告等から一般消費者が認識することとなる健康保持増進効果等の「印象」や「期待感」と実際の健康保持増進効果等に相違があることを指す
これは、実際には表示どおりの健康保持増進効果等を有しない食品であるにもかかわらず、一般消費者がその表示を信じ、表示された効果を期待して摂取し続け、ひいては適切な診療機会を逸してしまう事態を防止することを目的とするものです。
違反した場合のリスク
薬機法に違反した場合、以下のような厳しいペナルティが科される可能性があります。
・刑事罰
・行政指導
・措置命令
・課徴金納付命令
法律で定められたルールを守らずに事業活動を行った場合、企業や個人は深刻なリスクに直面することになります。単に“知らなかった”では済まされない厳しい措置が取られる可能性があり、事業の継続そのものにも関わる重大な問題に発展しかねません。
(1)刑事罰(懲役・罰金)
薬機法違反には、刑事罰が科される可能性があります。違反の内容や悪質性に応じて、懲役刑や高額な罰金が定められています。懲役刑の場合、違反者は最長で2年以下の懲役が科されることがあります。罰金の場合には違反者には200万円以下の罰金が科される場合があります。
・無許可・無承認での医薬品や医療機器の製造・販売
・承認されていない効果効能をうたう広告(虚偽・誇大広告)
・品質基準を満たさない製品の販売 など
特に、虚偽・誇大広告などについては、近年罰則が強化される傾向にあります。また、違反行為を行った個人だけでなく、その法人に対しても罰金刑が科される「両罰規定」が適用される場合が多く、企業全体としての責任が問われます。
(2)行政指導
行政指導とは、行政機関が行う是正処置を指し、違法状態の是正を命じるものです。(3)行政処分
刑事罰や行政指導とは別に、厚生労働大臣や都道府県知事から行政処分を受けるリスクがあります。
販売中止命令、回収命令
違反製品の市場からの排除を命じられます。回収には多大なコストと手間がかかります。
措置命令
虚偽・誇大広告等の禁止(同法第66条)や、承認前医薬品等の広告の禁止(同法第68条)に違反した場合、措置命令を受ける可能性があります。
具体的には、違反広告の中止、違反広告の再発防止策の公示(公表)などが命じられます。
業務停止命令
一定期間、関連する業務の全部または一部の停止を命じられます。事業活動がストップし、売上や信用に大きな打撃となります。
許可・登録の取消
医薬品等の製造販売業や販売業を受けた業者が、許可・登録の基準を満たしていない場合や、薬機法に違反した場合、許可・登録が取り消される可能性があります。
(4)課徴金納付命令
2021年8月からの改正薬機法に基づき、薬機法第66条に違反した場合は課徴金の納付が必要になります。
これまでは逮捕されない限り罰金は課せられませんでしたが、制度導入後は違反対象商品の売上の4.5%に相当する額の課徴金が課せられることになったのです。
薬機法違反にならないための対策
薬機法違反のリスクを回避し、事業を健全に継続するためには、以下の対策が重要です。
規制対象の確認
まず、自社で取り扱う商品やサービスが、薬機法のどの規制対象(医薬品、化粧品など)に該当するのか、あるいは該当しないのかを正確に把握しましょう。
広告審査の実施
Webサイト、広告LP、SNS、パンフレット、動画広告など、すべての広告媒体について、公開前に薬機法や関連法規(景表法、健康増進法)の観点から厳格な審査を行う体制を構築しましょう。審査の際には、厚生労働省や関連団体が公表している広告ガイドラインを参考にし、常に最新の情報をキャッチアップすることが重要です。 「この表現なら大丈夫だろう」という安易な判断は禁物です。グレーゾーンについては、専門家への確認が不可欠です。
弁護士への相談
薬機法は非常に専門的で複雑な法律です。自社だけで完璧に対応するのは困難な場合も少なくありません。広告表現のリーガルチェック、必要な許認可の確認・申請サポート、社内コンプライアンス体制の構築などについて、薬機法に詳しい弁護士に相談することが、最も確実で効果的な対策と言えます。早期に相談することで、未然にリスクを防ぎ、安心して事業に集中することができます。
薬機法に関するご相談は宇都宮東法律事務所へ
薬機法および関連する厚生労働省の省令等は、非常に複雑で専門的な内容が多く、気づかぬうちに違反してしまうリスクも潜んでいます。
もし、お困りごとがございましたら、弊所へお気軽にご相談ください。