未払い残業代を請求されたら?企業が対応すべきポイントを弁護士が解説

未払い残業代を請求された場合、どのように対応すべきなのでしょうか?未払い残業代は、従業員が労働時間外に働いた際の報酬として支払われるべきものですが、時に企業側の管理不備や認識の違いによって未払いが発生することもあります。この記事では、未払い残業代についての基本知識から、未払い残業代が発生することによる企業のリスク、請求された場合の対応方法、未払い残業代を発生させないための予防策について解説していきます。

未払い残業代の基本知識

未払い残業代とは、法定労働時間である1日8時間、1週間で40時間(労働基準法32条1項,2項)を超える超過労働に対して支払われるべき時間外割増賃金が支払われてないか、支払われていても不当に低い場合の賃金債権のことをいいます。残業代には、労働時間の延長、休日労働、深夜労働が含まれており、これらの支払いをしていないことで未払い残業代が発生します。

未払い残業代の請求には時効があり、2020年4月の法改正により時効は従来の2年から3年へ変更されました。未払い残業代が発生しているにも関わらず放置してしまっている企業にとっては、最大3年分の未払い残業代が請求される可能性があります。

未払い残業代が企業に及ぼすリスク

未払い残業代の対応を怠った場合や、適切な対応ししない場合は企業にとってどのようなリスクが生じるのでしょうか?主なものをいくつか挙げていきます。

従業員(元従業員)からの未払い残業代請求

未払い残業代の請求に向けて、従業員・元従業員が法的手段を取る可能性があります。例えば、従業員は内容証明郵便などで請求することもできますし、労働組合を通じて請求することもできます。そして、支払いがなされない場合には、労働審判や民事訴訟といった司法手続によって請求される可能性もあります。そのため、従業員からの未払い残業代請求を無視すれば、企業は法律違反による罰則を受けるほか、訴訟等に発展してしまう可能性があります。

また、「元従業員」と前述したように、残業代請求については退職をしている従業員からも請求をされてしまうリスクがあります。一方で、上記で記述している通り、未払い残業代の請求には時効が設けられているので、元従業員から未払い残業代の請求が来たらまず時効を確認することで、今後の対応方針を検討しましょう。

遅延損害金と付加金の発生

残業代が未払いとなった場合、遅延損害金や付加金などの罰則金を支払う義務が生じます。これは企業にとって更なる経済的な負担となる可能性があります。

遅延損害金とは、残業代が未払いになっている期間に対応した損害金です。

未払い残業代が発生している場合、遅延損害金の利率は年利3%となり、退職者(元従業員)の場合は、遅延利息が年14.6%になります。退職者による未払い残業代の請求は頻繁に発生する傾向があるため、企業側としても注意が必要です。

また、付加金とは裁判で未払い残業代が請求された際に、裁判所の裁量によって課されるペナルティで、金額は未払い残業代と同等程度となります。したがって、裁判所に未払いの残業代を請求されると、付加金が元の金額の2倍になり、それに加えて遅延損害金も課せられる可能性があります。従業員1名からの請求であっても非常に大きな金額になることがあるので、注意が必要です。

労働基準監督署からの調査や是正命令

未払い残業代の問題が労働基準監督署に報告されると、調査や是正命令の対象となる可能性があります。申告を受けた労基署は、企業に対して立入調査や是正勧告などの措置を行います。調査の結果、問題があれば、次の是正勧告書が発行されるなどの措置が取られます。この“是正勧告”とは労働基準監督署による警告書のことで、是正勧告に従って是正しなければ書類送検され、罰せられる可能性があります。

これにより、企業の評判や信頼性に影響が生じるおそれもあるため、慎重に対応を進める必要があります。

従業員のモチベーション低下・人材流出

残業代が適切に支払われなかった場合、従業員は会社からの評価や組織風土に不満を持ってしまい、会社へのエンゲージメントも低下する一方です。従業員の転職に対するハードルも低くなっているため、企業で労働環境から整備を行わなければ不満や離職の原因となる可能性があります。

未払い残業代を請求されたら?企業が行うべき対応の手順

未払い残業代を請求された場合、以下の手順で対応することをおすすめします。

請求の内容を確認、未払い残業代の算定

請求書や書面を受け取ったら、まずは内容を確認しましょう。内容証明郵便が届いたら、まずは会社側で残業代の計算を行い、未払い残業代の有無や正しい額を確認します。算出する際に、タイムカード、賃金台帳、就業規則などを基に当該従業員の未払い残業代を正しく算出することが必要です。その後、請求された金額との差や、今後訴訟となった場合の費用や見通しなどを考慮した上で、請求額を支払うかどうかを検討します。

この際に日々の労働時間管理が不十分だと、請求されたタイミングで未払い残業代を正しく算出できなくなってしまうため、日々の企業経営においても注意が必要です。

解決に向けた方向性の検討

解決に向けた流れとしては「示談交渉」「労働審判」等様々な選択肢がありますが、最初の対応策として多いのが示談交渉です。示談とは話し合いのことで、残業代請求における示談は従業員(元従業員)と企業が当人同士で話し合って今までの未払い残業代について算出・支払いを行う方法です。実際、労働審判や裁判で残業代請求をするよりも示談交渉で解決するケースが圧倒的に多いと言われています。

示談交渉で解決が難しい場合は労働審判や訴訟を考える必要もあります。

この手続きは、原則として3回以内の期日で審理が終了するため、早期解決に寄与する制度です。しかし、審判当事者の一方、または双方が不服を申し立てる場合は、通常の訴訟に移行します。

訴訟は解決までに時間がかかることと、他の方法に比べて証拠調べなどが厳格であるため、手間も費用もかかります。そのため、弁護士に相談することをおすすめします。

未払い残業代を予防するための対策

上記のような対応を迫られる前に、企業が未払い残業代を予防するためにはどのような対処をしておくことが求められるでしょうか。日々の労務管理も含めた予防策のポイントを下記にて解説します。

労働時間の明確な管理と記録

最も重要なのことは、日々の労働時間を正確に管理し、適切な記録を行うことです。企業は原則として始業・終業時刻を勤怠管理システムやタイムカード等を利用して確認・記録します。自己申告で確認・記録する場合は、適正に自己申告を行うよう従業員に対する説明や実態調査を実施する等の措置が求められます。また、タイムカードは従業員の労働時間を把握するための重要書類であり、法律で定められている保管義務や保管期間に従って適切に保存しなければなりません。さらに、従業員の労働時間についての基準やルールを明確化し、従業員に周知徹底することが必要です。

労働基準法の遵守と従業員への周知徹底

労働基準法に基づき、未払い残業代の支払い義務を守ることは大切です。従業員への労働基準法の周知と遵守は、法的リスクを軽減し、従業員満足度を高め、組織の信頼性を確保するために不可欠な要素です。遵守と周知を強化することで、組織は健全な労働環境を提供し、法的トラブルを回避できます。

労働環境改善と生産性向上の取り組み

過度の労働時間や過重な仕事負荷は、未払いの残業代の発生に繋がると言えます。企業としては、労働環境を改善し、ワークライフバランスを尊重し、安全で快適な職場を従業員に提供することを心掛けて行きましょう。また、未払い残業代を防ぐためには、残業削減への意識を高めていくことも必要です。

従業員の意識改革や労働時間に関する制度や体制の見直し、労働の平準化やIT化推進などによる生産性向上の取り組みを進めていくことで、残業削減の実現ができ、未払い残業代を予防することが可能になります。

まとめ

従業員から未払い残業代の請求を受けた場合、適切な対応をとる必要があります。したがって、予め未払い残業代に関する基本知識やリスクを理解し、問題に対する解決策を検討しておきましょう。もし、残業代請求対応や管理体制に関してお困り事がございましたら、お気軽にご相談ください。