経歴詐称の社員を解雇したい!       ~経歴詐称が発覚したら~

問題社員対応のご相談の1つに、問題行動が多いと思っていたら実は経歴詐称があったというケースが挙げられます。今回は、社員の経歴詐称についてお話をしていきます。

1.経歴詐称とは

経歴詐称とは、採用時に学歴や職歴などを秘匿し、または虚偽の申告をすることをいいます。経歴詐称は、使用者と労働者との間の信頼関係を破壊するものであるとともに、使用者の人事管理に重大な支障を来すことから、多くの企業において、就業規則上の懲戒事由として定めています。

2.経歴詐称の種類

経歴詐称には、大きく分けて次のような類型があります。

⑴ 学歴詐称

自らの学歴を偽る場合です。
高学歴の詐称のみならず、学歴を低く見せる低学歴詐称も含まれます。

⑵ 職歴詐称

自らの職歴を偽る場合です。
経験がないのに高度な経験を有しているかのように経歴を偽ったり、転職回数を少なく見せるために転職回数を偽ったりする場合です。

⑶ 犯罪歴の詐称

自己の犯罪歴を偽る場合です。
有罪判決を受けた場合が含まれますが、逮捕されただけである場合や不起訴処分となった場合は含まれないと考えられています。

3.経歴詐称発生時期別の対応方法

従業員の経歴詐称がいつの時点で発覚するかによって企業の対応方法は変わってきます。

⑴ 内定段階

内定段階は、法的には、使用者と労働者との間において始期付解約権留保付労働契約が成立している状態です。つまり、働き始める時期(始期)が決まっているものの、それまでの間に内定を取り消すべき事情が発生した場合、使用者は労働契約を解約することができるということです。そうすると、内定段階で経歴詐称が発覚した場合、使用者は解約権を行使することで労働契約を自由に解約することができるとも思えます。しかし、内定段階の解約権行使についても、解雇権濫用法理が適用され、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、無効と判断されてしまいます(労働契約法16条)。

⑵ 試用期間段階

試用期間段階は、内定段階と異なり、労働者の就業が始まっています。試用期間において、使用者は、労働者の人物や能力を評価して本採用するか否かを判断し、労働者の本採用を拒否をすることができます。そのため、試用期間段階で労働者の経歴詐称が発覚した場合、使用者としては本採用拒否を検討することとなります。ただし、試用期間段階の本採用拒否についても、解雇権濫用法理が適用され、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、無効と判断されてしまいます(労働契約法16条)。

⑶ 試用期間終了段階

試用期間終了段階では、普通解雇や、懲戒解雇を含めた懲戒処分を検討することとなります。解雇や懲戒処分を行う場合、解雇権濫用法理が適用され、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、無効と判断されてしまいます(労働契約法15条、16条)。なお、解雇の一般的なお話についてはこちらのページをご参照ください。

4.経歴詐称の事例

労働者の経歴詐称が問題となった判例を紹介します。

◎炭研精工事件(最判平成3年9月19日)

(事案の概要)
Xは、大学中退者でしたが、Y社に提出した履歴書には学歴を高卒と記載し、採用面接においても大学中退者であることを秘匿しました。また、Xは、刑事事件について公判係属中でしたが、Y社に提出した履歴書の賞罰欄には「賞罰なし」と記載し、採用面接においても刑事事件について公判係属中であることを秘匿しました。XがY社に入社後、Xが大学中退者であること及び有罪判決を受けたことが判明したため、Y社は、Xの経歴詐称等が就業規則上の懲戒事由に該当するとして、Xを懲戒解雇しました。

(判決の概要)
「雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うというべきである。」

「最終学歴は、……単に控訴人の労働力評価に関わるだけではなく、被控訴会社の企業秩序の維持にも関係する事項であることは明らかであるから、控訴人は、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる。」

「しかしながら、履歴書の賞罰欄にいわゆる罰とは、一般的には確定した有罪判決をいうものと解すべきであり、公判継続中の事件についてはいまだ判決が言い渡されていないことは明らかであるから、控訴人が被控訴会社の採用面接に際し、賞罰がないと答えたことは事実に反するものではなく、控訴人が、採用面接にあたり、公判継続の事実について具体的に質問を受けたこともないのであるから、控訴人が自ら公判継続の事実について積極的に申告すべき義務があったということも相当とはいえない。」

「原告が、大学中退の学歴を秘匿して、被告会社に雇用されたことは、就業規則三八条四号の「……経歴をいつわり……雇入れられたとき」に当たるというべきであるが、公判継続中であることを告げなかった点は同号に該当しないというべきである。」

(解説)
労働者は採用の際に、使用者に対して真実告知義務を負っています。その真実告知義務の範囲については、労働力評価に直接関わる事項のみならず、企業秩序の維持に関する事項も含まれるとされています。そのうえで、学歴は労働力評価に直接関わる事項であるとともに企業秩序維持にも関わる事項であるとして、学歴詐称は就業規則の懲戒事由に該当すると判断されました。

5.経歴詐称を防止するためには

以上のように、多くの経歴詐称は、懲戒事由に該当するものとして労働者を懲戒解雇することが可能となります。ただし、経歴詐称を理由として労働者を懲戒解雇するためには、懲戒事由の一つとして経歴詐称を定めている必要があります。そのため、経歴詐称を防止するためには、就業規則を整備することが重要となります。

経歴詐称が発覚した労働者を解雇することは可能ですが、いったん雇用した労働者を解雇することは、採用活動にかけた時間や費やした費用を考えると、企業にとって大きな損失となります。経歴詐称を防止する一番良い方法は、労働者を雇用する前にスクリーニングすることです。

具体的には、履歴書の記載で不自然な点を面接で掘り下げる、履歴書のほかに職務経歴書を提出させる、前職の退職証明書を提出させる等、できるだけ多く、かつ、正確な情報を取得することが重要となります。

6.労務管理については弁護士にご依頼ください

労務トラブルを防止するためには、予防法務や、問題発生時の初動対応が肝心です。当事務所は、労務トラブルに関する予防法務や初動対応の豊富な実績を有しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

監修者:弁護士 伊藤一星(弁護士法人宇都宮東法律事務所 代表弁護士)
所属/日本弁護士連合会、栃木県弁護士会
資格/弁護士

「誰でも気軽にリーガルサービスの提供を受けられる社会」を実現し、地域社会に貢献できる法律事務所を目指して弁護士法人宇都宮東法律事務所を設立。
主な取り扱い分野は交通事故・企業法務・労災・離婚など多岐に渡る。
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