解雇が認められる要件とは|確認すべき法律上のルールや注意点を解説
多くの方がご存じの通り、解雇は企業が自由に行えるものではなく、法律で定められた要件を満たす必要があります。
しかし、会社側が感情的に一方的に解雇してしまうことが少なからずあります。この場合、適切な手順で解雇をしなかったことで、従業員から不当解雇として訴えられてしまう事案は珍しくありません。したがって、法的リスクを防ぐためにも、解雇のルールを正確に理解することが不可欠です。
本記事では、解雇の種類ごとに確認すべき法律上の要件や注意点について解説します。
解雇とは?基本的な定義と企業の法的責任
解雇の種類
解雇とは、使用者である企業側が、従業員との労働契約を一方的に終了させる行為を指します。解雇を決断するには様々な理由がありますが、解雇原因の性質に基づいて、解雇は以下の3種類に分類されます。
解雇の種類 | 解雇原因の例 |
普通解雇 | Ø 協調性に欠き業務に不適応である
Ø 勤務態度が著しく悪い Ø 健康上の理由で職場復帰が見込めない |
懲戒解雇 | Ø 重大な規律違反・背信行為をした
Ø 犯罪を犯した |
整理解雇 | Ø 経営不振や不況等、経営上の理由に基づく人員整理(リストラ) |
解雇を適切に行うための法律的な枠組み
解雇を行えば、従業員はなす術もなく生活の糧を失います。そのため、従業員を保護する観点から、解雇には法律上の制限が付されています。民法上においては、使用者は期間の定めのない雇用契約をいつでも解約できることになっており、解雇の有効性を問う要件は定められていません。しかし、労働契約法には解雇が有効と認められるための要件が定められており、解雇をする際は必ずこの要件を満たしていることを確認する必要があります。
労働契約法16条の規律だけでなく労働基準法には解雇に関する様々な要件が定められています。法律上の要件を満たさない解雇は不当解雇となるため、解雇にあたっては必ず法律のルールを把握しておかなければなりません。
不当解雇に該当するケースとそのリスク
不当解雇に該当する例としては、以下のような内容が挙げられます。
- 労働組合に加入したことを理由とする解雇
- 解雇予告を行わない解雇
- 国籍や性別、信条等を理由とした解雇
- 業務上の負傷・疾病による療養期間やその後30日間の解雇
- 育児・介護休業をしたことを理由とする解雇
不当解雇を訴えられると、企業は金銭的なリスクを負います。具体的には、解雇が無効と判断されれば、無効な解雇が原因で受け取ることができなかった賃金を支払わなければなりません。また、慰謝料等の損害賠償金を請求されるケースもあるでしょう。
不当解雇に関するトラブルは、その後、訴訟に発展した際に無効と判断されると、その間のバックペイを支払わなければならないのみならず、訴訟対応のために業務の時間を割かれるなど、企業にとって大きなリスクを伴います。解雇を検討する際は、過去の裁判例等を参考に慎重な判断をする必要があるため、判断に悩む場合は弁護士に相談することを推奨いたします。
解雇をする際に気を付けるべきポイント
客観的合理性
労働契約法16条の要件から、解雇にあたっては「客観的合理性」が求められます。客観的合理性とは、第三者の視点から見ても解雇がやむを得ないと判断できる合理的な理由を指します。企業秩序に反する行動が繰り返された場合、傷病によって就業が困難になった場合、能力不足及び成績不良、頻繁な遅刻や欠勤において、合理性が認められるとされています。
社会的相当性
労働契約法16条に基づき、解雇には社会的相当性が認められることも必要です。社会的相当性が認められるためには、従業員の問題行為や状況を考慮した上で、解雇という処分が妥当でなければなりません。例えば、軽微な就業規則違反を理由にした解雇や、注意や指導を行わないまま突然行われた解雇は、社会的相当性を欠くとみなされる可能性が高いです。
解雇権の濫用禁止
労働契約法16条に定められる通り、客観的合理性を欠き、社会的相当性が認められない解雇は、企業が解雇権を濫用したものであると判断されます。
不当解雇による解雇の無効を訴えられるリスクがあるため、解雇要件を満たしていることの確認は必須であると言えます。
解雇の種類によって解雇理由が異なる
上述した通り、解雇には3つの種類があり、それぞれ異なる性質を有しているため、解雇理由の内容も異なることに注意しなければなりません。解雇が有効に成立するための要件に関して、確認すべき解雇理由を種類ごとに整理して把握しておくことが重要です。
解雇の種類ごとの具体的要件
普通解雇
普通解雇を有効に成立させるためには、以下の要件を確認しなければなりません。
- 労働契約法上の要件を満たしている
- 解雇通知を適切に行なった
- 解雇が制限される状況ではない
- 30日前までに解雇予告をするか解雇予告手当を支払っている
解雇が制限される状況とは、各法令で解雇が禁止されている場面を指します。たとえば、次のような解雇は法律に反するため無効となります。
- 業務上の傷病・疾病による療養期間とその後30日間の解雇
- 産前産後の休業期間とその後30日間の解雇
- 育児・介護休業を申し出たことを理由とする解雇
- 労働組合の組合員であることを理由とする解雇
- 性別を理由とする解雇
また、解雇通知等は口頭のみで行ってしまうと証拠が残らないため、受領書に署名をもらったり内容証明郵便を利用したりすることが重要です。
懲戒解雇
懲戒解雇が認められる主な要件は、以下の通りです。
- 労働契約法上の要件を満たしている
- 就業規則に根拠(解雇の規定)がある
- 問題行為をした事実を証明できる
懲戒解雇をするためには、懲戒解雇を行うには、自社の就業規則に解雇の具体的な規定が明記されている必要があります。就業規則に解雇処分の根拠がなければ、原則として懲戒解雇はできません。
また、懲戒解雇は就業規則上の定めに基づき退職金がないことが多く、従業員の経歴に残る等厳しい処分であるため、有効性の判断も厳しく行われます。妥当な処分であることを証明するために、処分対象の事由や企業の対処に関する証拠はできる限り、残しておきましょう。
整理解雇
整理解雇を行う際には、以下の4要件を必ず確認しなければなりません。
- 人員整理の必要性はあるか(人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていることが必要です)
- 解雇回避努力義務を履行したか
- 被解雇者の選定に合理性があるか
- 解雇手続に妥当性があるか
整理解雇は企業側の都合で行われるものです。そのため、解雇を回避するための努力(配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと)をした上で行われたものでなければ、有効性は認められません。また、解雇対象とした従業員を決める基準が、客観的かつ合理的で、公正な運用のもと決定されている必要があります。
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うなど解雇手続きが妥当であることも検討します。
日本型雇用慣行が崩れつつあり、また終身雇用・年功序列の下にない非正規雇用の増加もあって、要件の解釈はかなり変わっています。一つでも欠けると整理解雇が無効になる(4要件)のではなく、何かが欠けても四つを総合的に考慮した結果、相当と認められれば有効とする(4要素)、として捉える判例も増えてきています。
解雇を行う際に弁護士に相談するメリット
解雇手続きの流れや合理性、適法性のチェック
解雇をする際に弁護士に相談をすれば、検討している解雇手続きについて事前に不備がないかチェックやアドバイスを受けることが可能です。解雇要件の確認や解雇手続きの決定判断には、法律や過去の裁判例に関する専門的な知識と、自社の状況に合わせた判断ができる豊富な経験が求められます。解雇が無効になるリスクを回避するためには、専門家である弁護士に相談をすると安心です。
労使間トラブルへの迅速な対応と法的サポート
事前に解雇に関する相談を弁護士にしておくと、もし労使間で訴訟等のトラブルに発展した場合でも、迅速なサポートを受けることができます。紛争になった場合は、証拠の準備や反論の検討等迅速かつ適切な対応をすることが重要です。特に労働審判手続きにおいては、申立後に会社側は書面提出等迅速に対応しなければなりません。法的手続きは複雑なものが多く労力と時間を要します。特に中小企業等の法務部のない組織において対応しようとすると困難を極めます。しかしながら弁護士に依頼することで対応手続きを一任することができ、業務効率化を図ることが可能です。訴訟手続きは長期化することで社内の士気低下も招きます。
解雇に関することでお困りの方は弊所までご相談ください。
解雇は従業員に大きな不利益を与えるため、法律上の規律を満たす有効な解雇でなければ認められません。
解雇の無効を訴えられると企業にとってリスクが大きいため、解雇をする際は法律上の要件を慎重に確認することが重要です。解雇要件を確認し、自社の状況に応じた適切な判断を行うには、法律の専門知識や過去の裁判例に基づく経験が不可欠です。そのため、解雇を検討する際は弁護士にアドバイスを受けることを推奨いたします。
当事務所では、企業人事の経験と実績が豊富な弁護士が、解雇手続きのチェックから紛争サポートまで幅広くご相談を承ります。解雇に関するお悩みはぜひ一度ご相談ください。