タイムカードの意味-打刻時間と残業時間-
1 企業は、労働時間の状況を客観的に把握するよう義務づけられている!
タイムカードの意味を考えるにあたり、最近の法改正についてまずは押さえておきましょう。
会社規模問わず2019年4月1日を施行日として、健康管理の観点から、裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての人の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握されるよう法律で義務づけられました(改正労安衛生法66条の8の3、改正労安衛規則52条の7の3第1項、2項)(高度プロフェッショナル制度適用者は対象外)。
改正前は、割増賃金を適正に支払うため、労働時間を客観的に把握することを通達で規定していましたが、 裁量労働制が適用される人などは、この通達の対象外でした。
しかしながら、改正後は、
・労働状況は労働日ごとに原則としてタイムカード、パソコンの使用時間の記録、事業者の現認等の客観的な方法により把握し記録しなければならない(労安衛規則52条の7の3第1項)
・把握した労働時間の状況は記録を作成し3年間保存するための必要な措置を講じなければならない、電磁的媒体による記録・保存も許される(同規則52条の7の3第2項)
とされました。
これは、労働時間の状況を客観的に把握することで、長時間働いた労働者に対する医師による面接指導を確実に実施することを目的とするものです。
そして、「労働安全衛生法」に基づいて、残業が一定時間を超えた労働者から申出があった場合、使用者は医師による面接指導を実施する義務があります。
以上からすれば、タイムカードというのは企業が労働時間を客観的に把握するにあたり、重要な記録媒体であるということがいえます。
2 時間外労働(割増賃金)の訴訟において労働時間はどのように認定される?
この点につき、裁判例は、タイムカード等の客観的な記録によって時間管理がなされている場合には特段の事情がない限り、タイムカードの打刻時間をもって実労働時間と認定する傾向があります(東京地判平成17年12月23日労判910号36頁)。
一方で、いまだに従業員が手書きで作成した日報等で労働時間を管理している企業があります。このような日報についてはその信用性を否定する裁判例もあるため注意が必要です(大阪地判平成13年7月19日労判812号13頁)。
タイムカードや日報等の直接証拠がない事案の場合には、間接的事情を考慮して労働時間を推認することもあります。
会社がタイムカード等による出退勤管理をしていないことをもって従業員に不利に扱うべきではなく、会社が休日出勤や残業許可願いを提出せずに残業をしている従業員がいることを把握しながらこれを放置した場合には、ある程度包括的に時間外労働を推認せざるを得ないとして平均して午後9時までは就労していると認定した裁判例もあります(大阪高判平成17年12月1日労判933号69頁)。この裁判例は従業員の立証責任を軽減するとともに、会社側にとっては、出退勤管理を怠ったことで不利に働いた事案といえます。
以上からすれば、会社には基本的にはタイムカード等によって客観的に労働時間を把握する義務があり、これを怠った場合には後日トラブルに発展し裁判の中で認定上不利に扱われることがあるということは頭においておく必要があると言えるでしょう。
労働時間管理につきお悩みの企業の皆さま、弊所の顧問サービスでは後日裁判に発展した場合のリスク等を踏まえ、多角的な視点でアドバイスが可能です。
常日頃から労働時間管理については意識して行うことが重要で、裁判などのトラブルに発展してからでは手遅れです。どうぞお早めにご相談ください。